エマ・ドナヒューの小説「部屋」を映画した作品。原作は未読です。

ジャックは5歳の誕生日を迎えました。ママと一緒に台所、トイレ、風呂、洋服ダンス、ベッド、テレビがある"ルーム"で暮らしていましたが、扉は閉じられていて、外には出られません。狭い空間の中で、ママはジャックが肉体的にも精神的にも健康でいられるように最善を尽くしていました。ジャックが知るママ以外の人間は、ジャックが洋服ダンスの中で寝ている時にやってきて、食料や日用品を渡してくれるニックだけ。7年前、ニックは17歳のジョイ・ニューサム(ママ)を監禁し...。

原作小説は、オーストリアで2008年4月に発覚した"フリッツル事件"(エリーザベト・フリッツルという女性が、父ヨーゼフ・フリッツルに1984年から24年間監禁されて性的虐待を受け続け、7人の子供を出産していたという事件。父親は終身刑、エリーザベトと子供たちは国に保護され、問題を抱えながらも日常生活を送れるまでには回復。)から着想を得たそうです。まぁ、同じような事件は、日本を含め、様々な国で起きていますが...。

こうした事件を描いた作品は色々とありますが、犯人が捕まってオシマイというパターンが普通。本作は、救出された被害者のその後に焦点が当てられています。そして、監禁されている間の状況、事件後のことが、監禁中に生まれたジャックの視点で描かれているのも本作の特徴といえるでしょう。非常に重い事件を扱い、その影響の重大さを描きながらも、希望に向かった作品に仕上がっているのは、ジャックの視点で描いていることが大きく影響しているのではないかと思います。

本作の被害者であるジョイが20代前半、ジャックが5歳。この先の人生は長く、ジョイの場合でも、これまでの人生の倍以上の年月を生きる可能性があるわけです。監禁を解かれてメデタシメデタシという簡単な問題ではなく、むしろその後に、事件の影響により、様々な問題が表面化してくることになります。

外の世界で生まれ育ち、"ルーム"に監禁されているという状況の異常性を知り、17歳から24歳という人生の方向性を決めるうえで大きな意味を持つ時期を奪われたジョイ。そして、外の世界を知らず、"ルーム"こそが生まれ育った現実の世界だったジャック。同じ場所に監禁され、同じ体験を共有してきたジョイとジャックですが、2人の置かれた状況には違いがあり、そのことにより、外の世界に出た時の状況の受け止め方に差が出てきます。ジョイにとっては忌むべき場所である"ルーム"も、ジャックにとっては生まれ育った故郷。"ルーム"を懐かしがるジャックを見つめるジョイの目に浮かぶ辛さ。ジョイとの幸せな思い出が詰まった"ルーム"に戻れないジャックの哀しさ。それぞれがそれぞれにとってたった一人の味方だったはずなのに、その相手と同じ思いでいられないということは、相当な孤独感をもたらすことでしょう。ジョイの苛立ちとジャックの寂しさが痛々しく伝わってきます。

そして、年齢などによる適応力の違い。最初は戸惑い不安な様子を見せていたジャックでしたが、やはり、幼い子どもは柔軟です。どんどん新しい世界を知っていくジャック。一方、ジョイは想い焦がれた懐かしい世界に戻ってきたはずなのにその世界に傷つけられます。長い監禁に耐え、極限状態の中でジャックをきちんと育てられたのも、いつか元の世界に戻ろう、ジャックを守ろうという強い意思に支えられてこそ。不屈の精神と努力と大きな決断により、やっと取り戻した世界に裏切られた哀しさ悔しさもあったことでしょう。

けれど、全く同じ想いを共有することはできなくても、ジャックがいたからジョイは生きてこられたし、ジョイがいたからジャックがきちんと育つことができたのも紛れもない事実。ジャックがジョイにかけた言葉、そして、ジョイがその言葉を受け止めた表情が印象的。

監禁場所がすぐ近くに他の住宅があるような場所で、防音設備があったようにはとても思えず、2人が叫んだ時など、何故、周囲に気付かれなかったのかとか、ニックが約束を守る保証もなくジャックの脱出の顛末は都合よすぎたかもとか、ジャックを保護した女性の警官の推理力は凄すぎるのではないかとか、気になる部分もないわけではありませんでした。けれど、全体の構成もバランスがとれていますし、"ルーム"を出た時のジャックの目に映った外の世界の描写などが見事ですし、目を背けたくなるような映像はなく、ジョイを演じたブリー・ラーソン、ジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイの演技も素晴らしく、欠点を補って余りある見応えのある作品に仕上がっていたと思います。

お勧めです。


公式サイト
http://gaga.ne.jp/room/


↓よろしければ、ポチッとお願いします。
人気ブログランキング