アメリカン・ドリーマー 理想の代償 [DVD]/オスカー・アイザック,ジェシカ・チャスティン,デヴィッド・オイェロウォ
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1981年のニューヨーク。モラルを無視したつぶし合いが平然と行われている石油業界に乗り込み、公明正大なビジネスを経営理念に掲げた会社を夫婦で立ち上げたアベルとアナ。全財産を投げ打って事業拡大に必要な土地の購入に取り掛かりますが、その途端、石油の強奪、脱税の嫌疑、家族への脅威といった問題が降り掛かってきます。やがて、アベルたちの悪評が広がり、銀行の融資も絶たれ、アナとの仲も揺らぎだして...。

非道な仕打ちを受けながらも、単純に"やられたことをやり返す"のではなく、あくまで"正しい道を進んでいく"ことには、相当な困難が付きまとうもの。ましてや、基本的に"暴力には暴力"をヨシとする風潮が強いアメリカにおいては。それを貫こうとするアベルは、大きな抵抗にあいます。そして、最終的には、"正義だけの人"ではいられなくなります。

アベルたちに対する圧力がえげつないです。明かに犯罪レベルの嫌がらせの数々。アベルや家族の命が奪われなかっただけ、まだ、大人しいレベルだったと言うべきなのでしょうか。西部劇とかマフィアとかギャング系の映画なら命のやり取りがあったのでしょうし...。アベルは、拳銃の引き金に指を掛けたものの、そこで引き返しますが、もし、身内の命が奪われていたらどうだったのか...。

アベルの"正義"へのこだわりは、反対勢力を助長し危険度を高めたのか、あるいは、アベルが"目には目を"な反撃に出れば抗争が激化し周囲も含めて泥沼の危険に陥っていたのか...。判断は難しいところですが、暴力に暴力で対抗しようとしていたら、結局は多勢に無勢、アベルの側が不利だったのではないかと思います。その辺り、アベルに"計算"があったのかどうか...。かなり短期間で成り上がったようですから、ある程度、"清濁併せ呑む"姿勢は持ち合わせていたのではないかと...。アベルが全くあずかり知らないところで、アナが一人で何とかしていたというのも不自然な感じがしました。

ラストのアベルの選択は、変節か、裏切りか、方便か...。いずれにしても、彼の選択は、本人の言葉通り、"絶対的に正しい方法"ではないかもしれまでんが、"最も正しい方法(少なくとも、できるだけ正しい方法)"だったとは言えるのかもしれません。"正義"は、一見、美しいですが、その不寛容さゆえに軋轢を生むことがありますし、時に悪以上に人を追い詰めます。本作の面白さは、この"正義の悪"に目を向けたところにあるような気がします。

"アメリカン・ドリーム"という美しい理想の裏側にあるものに視線を向け、美しい夢を叶えるにはアナの狡猾さが必須であることを示唆しているような印象を受けました。アナの"不正義"を受け入れたアベルは、この先の正義を捨てるのか、正義に戻るのか、"清濁併せ呑む"柔軟さを身に着けていくのか...、その辺りに興味を惹かれたりもします。

イタリアマフィアを親族に持つ妻、ユダヤ系の地主、メキシコ系の使用人や部下、アフリカ系の検事、WASP系の石油ブローカ...。アメリカ社会を取り巻く様々な問題が浮かび上がるような関係性もリアルな感じがしました。

地味ですが、なかなか見応えある作品でした。


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