本多孝好の同名小説を映画化した作品。原作は未読です。

小学生の森山隆史は、父の和彦、母の皐月、兄の淳、姉の明日香の5人家族。一見、どこにでもいるような普通の家族ですが、実は、子どもたちは和彦とも皐月とも血縁関係はなく、皆、元々は別々のところで生まれ育った子どもたち。そして、和彦は空き巣、皐月は結婚詐欺、淳はパスポートなどの偽造で生計を立てていました。血の繋がりはなくても、それぞれに苦しい過去を持つ寄せ集めの家族は、ささやかな幸せを楽しんでいましたが、ある日、皐月が詐欺を見破られ、標的にしていた相手に拘束され、身代金を要求されてしまい...。

家族からはじき出されてしまった者同士が疑似家族を形成していくという設定は面白かったです。ただ、突っ込みどころ満載でした。

まず、何より、犯罪で生計を立てるという点については、その必然性があまり感じられなかったです。和彦はともかく、皐月と淳が犯罪でしか生きていけなかったかというとそうではなかったでしょう。少なくとも、皐月は、コンビニや飲食店の店員とか、水商売とかできたと思いますし、淳にしてもラストであれなら、疑似家族を作る段階でも普通の仕事に就けたはず。和彦にしても、空き巣に戻らざるを得ないほど、どうしようもない状況でもなかったような...。きちんとした家庭を築きたいと真摯に願うのであれば、普通、もっと必死になって堅気の仕事に就こうとするのではないでしょうか。それに、収入も不安定で、社会保障もない犯罪稼業より、真っ当な仕事で年金や保険に入った方がいろいろな意味で良いのではないかと...。

そして、戸籍の問題。隆史や明日香が公立の学校に通っているのですから、きちんと住民票があるということ。淳、あるいは、ゲンジが書類関係を偽造し、戸籍などを整えたということなのでしょうか。まぁ、それにしても、そう簡単に、過去を抹消し、全く別の人物として生活していくことができるのだろうかという疑問は感じますが、今の日本では、かなりの数の子どもや大人が行方不明になっているようですし、この点については、全くの絵空事とも言えないのかもしれませんが...。

皐月の結婚詐欺には無理があったと思います。和彦は、失敗して服役したことがあるにしてもそれなりに年季が入っているようですし、淳にはベテランの師匠がいるのでヨシとして、普通の主婦だった様子の皐月がいきなり結婚詐欺というのはどうかと...。素人が簡単に成功できるような世界ではないと思うのですが...。カモにばれてしまう原因にしても、あまりにお粗末。あんなところであんな電話するなんて、あまりに初歩的なミスで笑うしかありません。どの位のキャリアがあるのかは分かりませんが、このワキの甘さでは、それまで成功していたことの方が不思議な感じがします。

クライマックスの事件の処理についても疑問は残ります。あれで、本当の意味で隆史を守ったことになるのかどうか...。真実を隠ぺいすることで彼の心が却って傷つけられることもあるのではないか...。真実をきちんと明らかにしたうえで、心のケアをすべきだったのではないか...。もちろん、それで、過去のあれこれについてまでバレてしまっても困るわけで、その辺り微妙ではあるのですが...。

本物の家族は、結構、壊れやすい一面も持っています。夫婦はともかく、血の繋がった親子に互いが互いを選ぶ余地はないもの。血縁が相性の良さを保証するわけではありませんし、切っても切れない縁だからこそ、一旦こじれると泥沼にハマって抜け出せなくなったりするのでしょう。実の家族に問題があって、そこに居られなかった隆史たちだからこそ、ある種の覚悟と決意をもって温かい家庭を作り上げることを選択したのでしょうし、家族を維持するための努力もしているのでしょう。本物よりも本物らしくなるのは必然かもしれません。家族同士の間に感じられる思い遣りが、却って、彼らが維持するために努力を要する疑似家族であることの証左であるようにも思えて切なさが感じられました。

まぁ、設定や展開に関する突っ込みどころは、原作の問題かもしれませんので、それであれば仕方のないところなのですが...。

本作で面白いと思ったのは、ストーリーが隆史の作文に重ねられていること。隆史は、家族について書いた作文を父親たちが参観する授業で読み上げているのですが、そもそも、こうしたことは、家族が善きものであるという前提のもとに行われているワケです。本当は、家族の中に様々な問題を抱えていたり、家族と呼べる人がいなかったりする子どももいるかもしれないワケで、ある意味、残酷な行為とも言えます。こうした作文を皆の前で読ませるという行為の酷さを想像できない大人たちへの皮肉が込められているようにも思えました。そして、隆史の作文が、家族の温かさをしっかりと描いた良い文章と受け止められているのも、簡単に誤魔化される学校や世間への皮肉のようにも思えます。

そして、本物の家族に酷く裏切られても、無理しても家族を求めてしまう人々の姿は切ないです。人は、どんなに深い闇があっても、傷を負うことになっても、誰かと繋がりたい、できれば、"家族"という形で深く繋がりたいと願わずにいられないものなのかもしれません。

淳が、師匠、ゲンジに伝授される"偽造の心得"も興味深かったです。"大切なのは、どれだけ本物に似せられるかではなく、どれだけ自然に見せられるか。"本作の疑似家族のあり方にも通じるところがあり、印象的でした。

"本物の家族よりずっと家族らしい疑似家族"という設定は面白かったです。そこを活かして、もっとリアリティが感じられる設定にするか、納得できる背景をきちんと描いていれば、面白い作品になったのではないかと思うのですが...。残念です。


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