エドワード・ムーニー・Jrの小説「石を積む人」を基にした映画作品。原作は未読です。

篤史と良子の夫婦は、東京の下町で営んでいた工場を閉鎖し、残りの人生を北海道で過ごそうと決意。かつて外国人が生活していた家を手に入れ、新しい生活をスタートさせますが、仕事一筋だった篤史は、手持無沙汰で、時間を持て余します。そんな篤史に、良子は、家を囲む石垣作りを頼みますが...。

仲睦まじい篤史と良子。懸命に夫を支える妻とその掌で気持ち踊らされる篤史という、いかにも昭和な雰囲気の夫婦でした。篤史がどうなるか、全てお見通しの良子の包容力が人間離れしています。良子が「ああ見えて気が小さい」と評する篤史ですが、家で良子が倒れそうになった時の心細そうな表情に良子が話す通りの篤史の性格が現れていて印象的でした。篤史が振り返る蒲田時代の2人の雰囲気と美瑛での2人の雰囲気が違って見えるのは、篤史自身の反省があったからか、他に知る人もいない新しい土地での生活になったからか...。

そして、2人の生活に入って来る石垣作りを手伝う青年、徹とその恋人である紗英。最初の方で徹が篤史や良子に見せる姿と、紗英に見せる表情とがあまりに違いすぎて違和感ありました。少なくとも、紗英とあんな風な関係を築ける徹なら、しかも、親方の下でそれなりに石垣作りの技能を身に付けた様子な徹なら、もう少し、篤史や良子とコミュニケーションできるはずなのではないかと...。

まぁ、原作のある作品ですから、これが原作の設定なのであれば仕方ないのですが、物語的には悪くないのですが、あまりに美しく予定調和でアッサリ流れすぎて、手応えが感じられないというか...。どこかにもう少し、スパイスが欲しい感じはしました。

とても不思議な感じがしたのは、2人の経済的基盤。蒲田の工場と土地を売ったということですが、跡地がコインパーキングになったということですから、機械類は多少お金になったとしても、工場自体の価値はなかったのでしょう。暴力団っぽい人が登場するくらいですから、借金の金額はかなりのものだったことでしょう。少なくとも社長時代は、それなりに頑固一徹だったと思われる篤史ですから、借金が嵩んでもかなりギリギリまで頑張ろうとしたはずですし...。土地を売ったお金で借金を完済し、美瑛に土地を買い、家を建て、2人が悠々自適というのは現実的でないような...。良子の医療費もそれなりに掛かっていたでしょう。石垣作りの費用もバカになりません。あれだけの石を揃える費用と、徹の労働への支払い。クビになる前は親方から徹に給料が出ていたはずで、あの様子では他の石垣に専念な様子ですから、彼の給料分は篤史たちが支払っていないと親方は赤字です。おまけに空き巣に入られてお金を盗られて、それでも、慌てることなく余裕でいられる程のお金が蒲田の土地を売っただけで得られるものなのでしょうか...。自営業ですから、年金が出ていたとしても、頼れるほどの収入ではなかったでしょうし...。

自家用車を置く場所も気になりました。冬の厳しい土地柄。かなり雪が積もることも分かっていたはず。そんなところで車を外に放置するものなのでしょうか。あれでは、車に乗るたびに雪下ろしをしなければなりません。屋根と壁のある車庫を作るのが普通なのではないかと思うのですが...。違うのでしょうか...。

かなり蒲田とは気候が違う美瑛での生活に、篤史も良子も簡単に馴染んでいるのも不思議といえば不思議。少なくとも篤史に雪国での生活の経験があったようには見えませんでした。その篤史が、一人残され、あの環境の中でどう生きていくのか、とても用意周到にあちこちに手紙を遺していた良子が、その辺りのことについて無頓着なように見受けられるのも???でした。

それでも、キャストは実力派が揃えられています。特に、篤史を演じた佐藤浩市、良子を演じた樋口可南子、熊二を演じた柄本明、ベテラン陣がさすがの演技を見せてくれています。多少、難があっても、出演陣に力があって、それなりに楽しむことができました。確かな演技で、泣かされましたし...。


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