重松清の同名小説を映画化した作品。原作は未読です。

40代半ばの元高校野球時、坂町晴彦は、ある日、見知らぬ女性に「もう一度、甲子園を目指しませんか」と声をかけられます。ある出来事が原因で甲子園への夢を絶たれていた晴彦は、彼女の強引な誘いに苛立ちを隠せません。彼女は、晴彦の高校時代の野球部の仲間、松川典夫の娘、戸沢美枝で、東日本大震災で亡くなった父親の遺品の中から投函されないままの年賀状の束を見つけ、その宛名から晴彦を訪ねてきたのでした。実は、その松川こそが、晴彦たちが甲子園出場を諦めざるを得なくなる原因を作った張本人で...。

直球勝負な物語でした。予測通りの結末に向かって予測通りの展開で小細工なく突き進んでいきます。

タイトルから想像される"果たせなかった夢を取り戻す"物語というよりは、やり直せない過去に向き合うことで新しい人生を開いていく物語となっています。そこそこの年月生きていれば、誰しも、何らかの後悔を抱えているもの。元高校野球児たちの28年間の後悔。高校球児も28年経てば十分にオジサンです。仕事にもついているでしょうし、家庭もできているでしょう。甲子園の夢を諦めざるを得なかったオジサンたちは、若かりし日の後悔の上に、職場での問題や家庭での問題を積み重ねています。

手に入れかけていた夢を手放したことは、28年の時を経て、未だに彼らを傷つけています。けれど、どんなに悔いても過去を取り戻すことはできません。一度起きてしまったことを取り消すことはできないし、失ってしまったものを取り戻すこともできません。けれど、後悔に決着をつけることはできるかもしれないのです。そして、そのための手段が、"負けることから逃げない"とか"きちんと負ける"ということになるのでしょう。

本作は、"あの夏を再び"というよりは、"新たな夏を作る"物語だったのだと思います。後悔の渦から抜け出した晴彦たちの表情が清々しくて印象的でした。

欲を言うなら、あれだけ晴彦への嫌悪を露わにしていた娘の沙奈美の心変わりが唐突だったこと。まぁ、美枝が沙奈美に何らかの話をしたのだとは思いますが、それにしても、沙奈美に甲子園に行くことを選択させたものは何だったのか、その辺りは、もう少し丁寧に描いて欲しかった気はしましたが...。

主演の中井貴一、ともにマスターズ甲子園に出場することになるかつてのエース、高橋を演じる柳場敏郎は安定の力のある演技。中井貴一は、甲子園出場の一歩手前まで近づいていた野球部のキャプテンというには、野球の動作がぎこちない感じもしましたが、28年間、野球から離れていたという設定だったので、それ程、不自然な感じはしませんでした。美枝を演じた波留も真っ直ぐで透明感のある雰囲気が良かったです。

ところどころ笑わせられ、そして、泣かされました。ベタと言えばベタだけれど、真っ直ぐ心に入ってくるものがある作品でした。お勧めです。


公式サイト
http://www.again-movie.jp/


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