アクト・オブ・キリング オリジナル全長版 2枚組(本編1枚+特典DVD) 日本語字幕付き [B.../出演者不明


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1965年9月30日、インドネシアで発生した"9・30事件"後の大虐殺。その虐殺の実行者たちに自らの殺人を再現させ、その胸中と虐殺の実態に迫っていきます。最初は、自慢げに自らの手柄を語っていた虐殺の実行者たちの心情が、過去を演じることで徐々に演技を通して徐々に変化していく様子を追ったドキュメンタリー。

得意気に"共産主事者たちを始末した"経緯を語る人々も、決して悪人ではありません。ごく普通の男たち。子どもや動物に対して優しい心遣いを見せてもいます。何人も殺していた当時でさえも、良き夫であり、良き父でもあったことでしょう。けれど、そんな彼らも殺戮者になりました。いえ、むしろ、良き夫であり父であったからこそ、"大切な家族"を脅かす(と考えられる)者に対して冷酷になれるのかもしれません。そして、"敵"を殺すなら、それは正義。平時に街で人を殺せば殺人ですが、戦場で敵を殺せば、手柄となり、名誉となるわけです。本作に登場する"殺戮者"が自慢気なのも当然と言えば言えるわけで...。

もっとも、少なくとも、第三者的視点に立てば、とても、彼らが行ったことが無謬の正義とは言えません。いくら何でもそんな理由で殺すなんて、しかも、それが正当化されるどころか、手柄とされているなんて...という部分も多く、同時に、彼らの罪悪感や後悔のなさに驚かされます。本作は、そんな"殺戮者たち"の"罪"に目が向けられ、徐々に、"殺戮者"が自身の"罪"に目を向けていきます。その過程は、人類の歴史の中に果てしなく繰り返されてきた殺戮に対処する一つの効果的な方法のようにも感じられます。ただ、そこにあの"犠牲となった共産主義者"のセリフは何だったのか...。最後でちゃぶ台をひっくり返されたような印象を受けてしまいました。

まぁ、アメリカの支持を受けて成立したスハルト政権下で起きた虐殺で、スハルト政権が行った共産主事者たちに対する徹底的な弾圧は、アメリカの意向に沿うものでもありました。その虐殺という行為は、アメリカの政策に基づくものであったことを考えると、"殺戮者たち"が社会的に評価を得ているのももっともなのでしょうし、彼らの行為を一方的に糾弾する形にならないよう何らかの逃げ道を用意せざるを得なかったのかもしれませんが...。

さらに、本作を撮った側が、同じ罪を抱えながら、自身の罪には真摯に向き合っているように思えないのは気になりました。作中で、アメリカ大陸を手に入れるために、欧州の人々が先住民族を駆逐したことに触れられていますが、アメリカでは、"凶暴なインディアンたち"を"退治"する勇敢な白人の英雄たちが数多く描かれてきました。本作と違い実際に殺戮を行ってはいない者たちが演じているので、その点が違うワケですが、演じる者たちの中にも悔恨の情など全くなかったことでしょう。

現在でも、世界に目を向ければ、"多くの敵を殺した英雄"が、新たに生まれています。フランスでテロを起こした犯人も、"イスラム国の英雄"となるのでしょう。自分たちが神と信じる存在に反した生き方をする"敵"に適切な罰を与えたのですから。けれど、同時に、テロの犯人を殺した者も手柄を立てとされているのでしょう。多分、殺し合いが終わらないのは、両方に正義があるから。私利私欲のために戦う場合、自分の命を犠牲にしては目的を得られないわけですから、命の遣り取りをするところまでは行きにくいのでしょうけれど、正義のために戦うとなると双方が命懸けになるから始末におえません。

現在の私たちの視点から見れば、とても、彼らの行いが正義であるとは言い切れませんが、当時の彼らには、確かに"正義"があったのだと思います。その彼らの中にあった"正義"やそれを支えたアメリカなどの存在と現在の彼らを取り巻く状況の関係にもっと言及して欲しかった気がします。その部分が薄かったため、製作者側が年老いた"英雄たち"を苛めているような雰囲気も感じられ、その辺りがモヤモヤしてしまいました。

描写もダラダラして、121分が長く感じられました。もっとコンパクトに纏めるべき内容だったと思います。題材が興味深かっただけに残念な感じがしました。


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