ブエノスアイレス恋愛事情 [DVD]/ピラール・ロペス・デ・アヤラ,ハビエル・ドロラス,イネス・エフロン
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ブエノスアイレスで独り暮らしのマリアナとマルティン。近所に住んでいる2人ですが、まだ、互いのことを知りません。2人に共通しているのは、恐怖症があること。マリアナはエレベーター、マルティンは広場と人ごみ。建築家のマリアナは建築の仕事にはありつけず、ショーウインドウのディスプレイを手がけ、相手にするのはマネキンばかり。マルティンは家にこもるウェブ・デザイナー。つきあっていた女性が犬を預けたまま、米国へと旅立ち、暗い部屋に犬と一緒に残されます。買い物はすべてネット。犬の散歩係もネットで調達。精神科医からは、広場恐怖症を克服するためにカメラを通して街や人をみるよう勧められ写真を撮り始めます。マリアナも、4年間、一緒に暮らした恋人との別れから未だ立ち直っていません。恋人との生活を始める前に一人で住んでいた部屋に戻りますが、段ボール箱には、荷物が入ったまま。この状況から脱したいと思った2人は...。

30歳くらいになれば、新しく人と出会うことも少なくなり、20代まではかろうじて残っていた夢や希望もしぼんでしまったりします。若い頃の利害関係の絡まない人間関係にも、打算が入り込み、互いの社会的な成功の度合いが気になったりするようになり、若い頃のようには純粋に楽しめる関係ではなくなってきたりするのも30歳頃。50代とか60代になれば、また、純粋な関係に戻れたりすることもあるのでしょうけれど、30歳頃というのは、とかく微妙なお年頃。

マリアナやマルティンのような生活は、そこそこ発展した国の大きな都市なら、ブエノスアイレスに限らず見られることなのでしょう。それなりの規模の都市なら、マルティンのような引きこもり生活を成り立たせるために必要なインフラが整っていることでしょうし。アルゼンチンの人と言えば、タンゴに代表されるような情熱的な人々を連想させられるのですが、どこにでも、その国の国民性からはどこか外れた感じの人が少なからず存在するわけで、オタクな生活が許される環境があれば、オタクな生き方をする人が出てくるということなのかもしれません。

ブエノスアイレスに行ったことがないのでよく分からないのですが、街の風景が無機質にお洒落に切り取った映像が作品の雰囲気にぴったりで印象的です。マリアナが失恋して泣いていると隣の部屋の住人が弾くショパンの"別れの曲"が聴こえてきたりといった、程よくコミカルに映像に味付けをしている音楽の使い方も良かったと思います。鉄腕アトムとか、こけしとか、招き猫とか、日本語の書かれた段ボール箱とか、ところどころにちょっとした"日本"が顔を出すのも日本人としては楽しめるところ。

全体に起伏に欠け、平板な感じで、少々、退屈な部分もありますが、まぁ、主人公たちの生活振りを考えればそんな描き方が正解なのだろうとも思いますし、それこそが、本作の空気感なのだと思います。

で、男女が登場する映画の言わずもがなのお約束として、マリアナとマルティンは出会うのですが、そこにも、それまでに登場するものが活かされていてセンス良く纏められています。ちょっと出会いの部分がアッサリし過ぎている感じもしますが、作品全体の雰囲気に合ったエンディングと言えるかもしれません。

明るく情熱的なラテンなノリのイメージとは違ったアルゼンチンを見せてくれる作品です。


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