フィラデルフィア (1枚組) [DVD]/トム・ハンクス,デンゼル・ワシントン,アントニオ・バンデラス
¥1,522
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一流の法律事務所で働く敏腕弁護士ベケットは、若くしてその力を認められ、大きな案件を任されます。ところが、輝く将来が約束されたかに見えたそんな頃、エイズを発症。それを事務所側に隠して働き続けますが、顔の発疹からエイズの感染に気付かれ、事務所側に仕事上のミスをでっちあげられ解雇されてしまいます。不当な差別と闘うためにベケットは事務所を訴えようと弁護士を探しますが、なかなか、大手法律事務所相手の訴訟を引き受けてくれる弁護士を見つけることはできません。けれど、ゲイであるベケットへの偏見もあり、一度は依頼を断った弁護士、ミラーが、ベケットの真摯な姿勢に心を打たれて協力を申し出てくれて...。

ゲイは神の教えに反する行為と信じている法律事務所の社長、ウィーラーにすれば、ベケットは、その点で神の意志に反した存在となり、排除すべき者となったのかもしれません。だからと言って大きなミスをでっち上げてまでベケットを解雇して良いということにはなりませんが、そんなでっち上げも正当な手段と信じられるほど、彼の中でそれは決して侵されるべきではない大きな"正義"だったのかもしれません。本作の中では一番の悪役となっているわけですが、彼なりの"正義"のための行動だったのでしょう。元々、ベケットにとっても、尊敬できる上司で、そんな彼に認められることはベケットにとっても大きな喜びだったのですし...。

人は、未知のものに対して恐れを抱きやすいもの。そして、恐ろしいものを遠ざけよう、そこから離れようとするのは、ある意味、当然の反応と言えるでしょう。それは、自分の身を護るための知恵であり、そうして、人類は長い歴史を生き延びてきたのでしょうから。そう、未知の物を恐れることを責めるのも酷というもの。けれど、偏見や無知から誰かを排除することを許せば、やがて、それが、自分に返ってくる可能性もあるワケで...。

本作は1993年の作品で、まだまだ、HIVについて、エイズについて分からないことが多く、必要以上に恐れられていた頃。それから20年以上が経ち、一般的に正しい知識が広まることで、偏見が薄れてきていることも事実。けれど、それでも、社会の中から完全に偏見が消え去ったというワケでもありませんし、これは、HIVとかエイズだけの問題ではなく、また、新しい病気なり症状なりが出てくれば同様のことが起こる可能性はあります。かつて、ハンセン病について、様々な社会において不当な差別や迫害が行われてきたわけですし...。

一方で、いろいろな在り方を認め合うことで、社会が豊かになってきたことも事実。そして、将来、自分自身の人生がどう転んでも安心できるようにするにも、様々な生き方、在り方が認められる社会を作ることは大切なこと。そう、今、自分が差別される側に置かれることなど想像だにしていない人の身にも、この先、何が起こるかわからないのですから...。

ゲイに対する偏見を持ちながらも、それでも、自分が受け入れられない傾向を持った人間だとしてもその権利は守られることが正義だと信じるようになり、その正義のために闘ったミラー。最初、ゲイに対する偏見を隠すこともなかったミラーが、ベケットの人となりをよく知るようになり、訴訟を通してゲイの人々と接する機会が増える中で、徐々に、意識が変わり、偏見から解き放たれていく姿に、差別という問題を乗り越えるための方法が示されているようでもあります。

偏見と闘う人の物語を扱う映画作品は珍しくありませんが、その中でも特に印象的な作品の一つとなり得ている背景には、単に"偏見=悪"と決めつけず、"偏見"と"正義"を別の次元で描いたこともあるのではないかと思います。

多少の衝突があっても、トラブルがあっても、関わっていくことが大切なのかもしれません。そして、偏見があっても関わっていくことはできる。異質なものをないものとして無視することからは何も生まれないのです。

ベケットの家族のベケットへの接し方などは、美しく描かれ過ぎている感じは否めません。独立宣言がなされた自由の地、兄弟愛の地であるフィラデルフィアを舞台にし、かつて酷い差別をされ人間としての最低限の権利さえ認められなかった黒人のミラーが白人のベケットを弁護する...といった設定も作り過ぎ感がないわけではありません。ラストも、引っ張り過ぎて感がありました。勝訴か、その後を加えるにしても、せめて、葬儀の場面で終わった方が良かったのではないかと...。

ミラーを演じたデンゼル・ワシントンを始め、脇も力のある演技陣で固められていますが、ベケットを演じたトム・ハンクスが実に印象的な演技を見せてくれます。溌剌とした活躍を見せていた時から、徐々に病気が進行し、やがて、死に近づいていく過程を実にリアルに表現しています。その辺りは実に見応えありました。一見の価値ある作品だと思います。



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