プライズ ~秘密と嘘がくれたもの~ [DVD]/ラウラ・アゴレカ,パウラ・ガリネッリ・エルツォク
¥4,320
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現在はメキシコを拠点に活動する女性監督のP・マルコヴィッチが、自らの記憶と体験をもとに作り上げた半自伝的ドラマ。

反政権的な活動をした1~3万人が殺されたといわれる1970年代、軍事独裁政権下のアルゼンチン。世間から身を隠すように、海辺のボロ屋で1組の母子がひっそりと暮らしていました。7歳の娘、セシリアは、身を隠す必要性は教えられているものの、事の重大性は十分理解できていません。ある日、作文に従兄弟が軍に殺されたことを書いてしまい、それを知った母親は、担任のところに行き、書き直させて欲しいと訴えます。ところが、書き直した作文が最優秀賞を獲得してしまい...。

身を隠さねばならない、けれど、セシリアの成長を考えれば学校には行かせたい。学校へ行くということは社会生活に参加するということ。そこから身に危険が及ぶ可能性は十分にあるわけです。

セシリアの安全を考えるが故の母の心配は、セシリアの言動を制限するものともなり、セシリアにとっては受け入れがたいものとなったりもします。そして、そのことは、セシリアの友人との関係にも影響を及ぼします。理解を超える母親の態度に理不尽さを感じつつも、母を求めるセシリアのやるせない気持ちが繊細に表現されて心に沁みました。

母の不安な心情を反映するようなどんよりとして風の吹きすさぶ荒涼とした海辺の光景が、この作品を包み込む暗さ、重さを伝えながらも、妙に美しくて印象的でした。

授賞式への出席について母に許しを請うセシリア。本来なら娘を誉め、ともに喜び合う状況であるにも拘らず、それができないばかりか、娘が許しを請わざるを得ないような状況になってしまっていることは、母にとっても大きな心の負担だったことでしょう。

子どもが子どもらしい率直さ一生懸命さで自分の能力を十分に発揮し、その成果を子どもも大人も素直に喜び合える幸せな社会を失わないようにしたいものです。

登場人物を取り巻く状況についても最低限の情報しか与えられず、どうやって生活費を得てどうやって日常的な生活を成り立たせているのかといった部分も省かれ生活臭がほとんど感じられません。子どもがうかがい知れない部分の描写を排除し、セシリアの視点に立った描写が心がけられているということなのでしょう。

セシリアを演じたラウラ・アゴレカの演技が実に自然な感じで秀逸。軍事政権下の社会の理不尽さ、その中で生きていくしかない人々の辛さを切々と伝えています。授賞式に出るかどうかで母と娘が揉める場面など、やや長さを感じるシーンもあったりはしましたが、人の心に訴える力を持つ佳作でした。


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