アレクサンダー大王 [DVD]/オメロ・アントヌッティ,エヴァ・コタマニドゥ,グリゴリス・エヴァンゲラトス
¥6,264
Amazon.co.jp


20世紀目前の大晦日、アレクサンダー大王と呼ばれる首領に率いられた山賊たちが脱獄します。 銃を手にした彼らはイギリス人貴族たちを誘拐し、アレクサンダーの故郷の村に身を寄せます。村は、アレクサンダーがいない間に、"先生"と呼ばれる指導者の元、共産化していました。アレクサンダーとは思想を異にする村人たちでしたが、イギリスの圧力に悩む中、イギリス貴族を誘拐するなど、ギリシャの人々の恨を晴らすような事件を起こした"アレクサンダー大王"を英雄として迎え入れます。アレクサンダーたちは、イギリス人貴族の命と引き換えに、政府に対して獄中の同士の釈放、地主に対して土地の返還を要求します。村は、政府軍に取り囲まれ、人質の解放を巡る交渉が水面下で行われますが、双方ともに強固な姿勢を崩そうとしません。そんな中、アレクサンダーの部下たちは、私有財産が認められないことに不満を持つようになり、村人たちの間にも土地を所有したくなる者も出て、共産主義体制は揺らいでいき...。

ストーリーを映像や台詞で進行させていくというより、人々の情念を映像にし、その積み重ねでストーリーを感じさせる...といった感じでしょうか...。ストーリーや展開を易しく解説してくれることはないので、"分かりやすい"作品ではありません。けれど、簡単に表現できることを難しくこねくり回したとか、高尚な芸術に仕上げたという独善的な臭いはあまり感じられません。表現されている映像の流れが、時の積み重ねを感じさせ、人々の変化や社会の動きを感じさせてくれます。そして、どこか、映像に作る側の"覚悟"のようなものが感じられます。テクニックに対するこだわりでなく、想いを伝えることへのこだわりが感じられるから、独りよがりな感じがせず、観る者を引き込むのだと思います。

理想がいつの間にか変質していく。それも当初の理想とは正反対な方向へ。それは、歴史を振り返ってみれば、ままあること。本作の"アレクサンダー大王"は、スターリンでもあり、毛沢東でもあり...。ヒトラーも、当初は、疲弊した国家の救世主として迎えられたワケで...。

一時は思いのままに大きな権力を振るった独裁者たちも、やがて、最初は熱狂的に支持していた民衆からも反発されるようになり、やがて、失脚していきます。それも、歴史の必然。村の人々は、いずれまた、新しい指導者に担ぎ出し、やがて、捨て去っていくのでしょう。

フィクションでありながら、強いリアリティが感じられるのは、本作の物語をあてはめられる現実が人類の歴史の中に繰り返されているからでしょう。時に、フィクションが事実よりもリアリティを持つことがありますが、本作も、空想的な表現の中にリアルに迫ってくるものが感じられます。

ラストは、新しい道が開かれることを示唆するのか、"歴史は繰り返される"ことが暗示されるのか...。

直接的に表現されているものよりもずっと多くのことが暗示され、様々な物の象徴が詰め込まれ、人類の歴史が凝縮され、とてつもない分厚さが感じられます。そして、ゆったりと進んでいく3時間半に迫る長い映像がその圧力を高め、圧倒的な迫力を伝えています。観ていて、頭の中が混乱しつつも、作品が持つ強烈な磁場に引き付けられていき、エンディングを迎えてその磁力が消えた途端にどっと疲れを感じる...そんな、観る者を振り回す力を持った作品だと思います。

正直、かなり疲れる作品ですが、なかなか他では味わえない体験ができる作品であることも確か。それなりの覚悟は必要になりますが、それでも、一度は観ておきたい作品だと思います。



人気ブログランキング