化粧品会社に勤める綾子は、中学と高校で同級生だった由香里と再会します。綾子は、工事現場で警備員のアルバイトをしていた由香里を自分が働く会社に誘い、2人は同じ会社で働くようになりますが、綾子の由香里に対する振る舞いは次第に冷淡になっていき...。

音楽がないことも影響しているのだと思いますが、隠しカメラで映し出されているリアルタイムの映像を観ているような感じもします。登場人物たちの言葉もセリフというよりもずっと日常的で、"演じている"感じが薄く、その辺りに普通にいるOLの日常がそこにあるようなナチュラルな雰囲気。登場人物たちの会話の上に、彼らよりも手前にいるその他大勢の声が重ねられたりするところも、作り物っぽさを薄めています。

その当たり前の日常の中に潜むものが徐々に浮かび上がってきます。由香里に声をかけた綾子。早く綾子に立ち去って欲しいという由香里の思いを無視するように語りかける綾子。その裏に悪意があったのか、単に"空気を読めない"お節介だったのか...。卒業後、音信不通だった由香里を自分の会社へと誘うというのは、不自然のようにも思えるし、単に綾子のお節介な性格ゆえのようにも見えるし...。父に綾子の話をあれこれするのも、意味ありげなような、単なる日常会話でもあるような...。その綾子に引っ張られていくような由香里の言動にも、どこか、不可解な感じが漂います。

映像はドキュメンタリーと見紛うほどにリアルで自然なのですが、綾子も、由香里も、少しずつ不自然さ、不可解さを帯びていきます。ストーリーの進行とともに、徐々に、綾子の中に、そして、由香里の中に隠されていたものが顔を出しています。そして、それにつれて、その背景に何があるのか、疑問が湧いていき、その謎が、観る者を映像に引き込んでいきます。

ただ、惜しむらくは、その過程の不気味さが、ちょっと物足りませんでした。"種明かし"まで、結構、引っ張られる感じもあって、原因はともかく、何があったのかは想像がついてしまいますし、明らかにさせる綾子の"動機"も、あまりに強引。何だか、本作の良い部分が、このクライマックスに明かされる"動機"により薄められてしまった感じがして残念でした。そして、由香里が、クライマックスで綾子に対していろいろと気持ちをぶつける割には、最初の段階での綾子への疑惑の向け方が足りないような...。普通だったら、もっと、綾子に対して警戒心を持っていても良かったような...。まぁ、由香里は、全体的に無防備な感じもするので、それが由香里なのかもしれませんが...。

由香里の彼氏にしても、綾子にいろいろ言われても由香里への気持ちは変わらなかったようですが、それなら、綾子に対し不審を抱くのではないかと...。綾子と会った後の由香里との食事の時、綾子の言葉を100%信じてはいないような感じなのにやけに綾子の肩を持つのは不自然な感じを受けました。

綾子も、計画的なようでいて、アナも目立ちます。まぁ、由香里の性格を読んだ上での計画ということでもあったのでしょうけれど、クライマックスの場面など、あまりに不用心。確かに、綾子にとってあまりに予想外の出来事があったにせよ、それがなくても、危険なことが起こる可能性のある状況ではあったわけで、何らかの対策を講じておく必要があったような...。

クライマックスで起こった事実を綾子の父親が知るところからラストにかけては、光石研の演技が見事。最後の最後でしっかりと作品の世界に浸ることができました。

もっと、ごく当たり前のできごとから深い恨みつらみが生まれるという設定だったら、そして、それは、綾子の側にも、由香里の側にもあった...という描き方になっていれば、もっと、人間の心の奥底の闇といったものが不気味に感じられたような気がするのですが...。

とはいえ、145分、それなりに楽しめました。ところどころ"アレッ"と感じる部分が、その先への伏線になっていて、その辺りの構成も見事でした。お勧めです。


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