あかぼし [DVD]/朴ろ美
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東京郊外に暮らす母、佳子と小学5年生の息子、保。半年前に夫が姿を消して以来、心のバランスを崩していた佳子は、新興宗教"しるべの星"に入信。一方、保は宗教活動を理由に壮絶ないじめを受けるようになります。そんな中、佳子はトラブルを起こして教団から追放されます。再び精神的に不安定になった母に寄り添う保でしたが、教団で知り合った少女に家出しようと誘われ...。

心の隙間に入り込んでいく新興宗教...とはいえ、本作の"しるべの星"は、所謂カルトというのとは違っているようです。"伝道"に力を入れてはいるようですが、お金を要求するという感じはなく、信者の生活を丸ごと奪うという感じでもなく...。まぁ、他の宗教が関連するイベントなどには出ないとかはあるようですが、何だか全体に緩い感じがして、"怖いカルト"という雰囲気が感じられず、そのために、佳子が壊れていく背景が薄くなってしまった感じがします。

"天は自ら助くる者を助く"。神に救われようとしても人は救われない。"しるべの星"に、というよりは、"しるべの星"という集団の中で自分に与えられる評価に依存する佳子の心が救われる方向に向かないのは仕方のないことなのかもしれません。入り込んでしまった負のスパイラルの中でもがいてもがいて、ますます深みにはまっていく姿は実に痛々しかったです。佳子を演じた朴璐美が、佳子のどうしようもなく壊れていく哀しい姿を熱演していて、佳子のヒリヒリするような痛みが伝わってきました。

そんな佳子の異常さを感じつつも、その異常さを支えてしまう保。その保の佳子を思い遣るが故の自己犠牲的な行為が、ますます佳子の精神の崩壊を助長させてしまう酷さ。保も、そのことを分かりつつも母から離れることができません。まさに、"共依存"。

宗教の恐ろしさというよりも、佳子と保の離れられない関係の恐ろしさが前面に出ている作品です。そんな2人が救われるかもしれないチャンスが訪れます。救いの神は、"しるべの星"で知り合ったカノン。けれど、保は、折角、握りかけたカノンの手を放し、再び、佳子の元へ。もちろん、カノンと行動をともにしたところで、その先に明るい幸せが待つ保障は全くありません。けれど、佳子との共依存の中に生きるよりは可能性に満ちた道のりだったのだろうと思います。それを断ち切った彼の選択は、抜き差しならない不幸の始まりのように思えてなりません。バッドエンドにも、ハッピーエンドにも受け取れる曖昧なラストですが、観終えて作品を振り返る時、このラストの恐ろしさがジワジワと感じられます。

親が精神的に子どもに依存するということ自体はそう珍しいものではないのでしょう。自分の果たせなかった夢を子どもに託して、子どもの教育に必死になる...というのも、本作で描かれる佳子と保の関係と大きく変わらないのかもしれません。自分がなりたくてなれなかったスポーツ選手や音楽家、アイドルなどにするために熱心になる、身につけられなくて悔しい思いをした英語を学ばせる...。子どもの好き嫌いと一致すれば、それはそれで良いのかもしれませんが、子どもの希望と一致しなければ、佳子と保の関係と似たものが生じていく可能性は大きいのだと思います。

親が子どものことを考える時、自分の歩んできた道のりやその中で育まれた想いと切り離して考えることは至難の業。悪意のないところにも、親の子どもへの押し付けは生まれます。例え、所謂カルトではなく、善意の宗教であったとしても、むしろその善意ゆえに人の心を追い詰めてしまうこともあるのと同じように...。

子どもに親の心を支える責任を負わせないためには、親が一人の大人として自立しなければならない...ということなのかもしれません。そして、自分の心を絡め取られないためには、"地獄への道は善意で舗装されている"ことを肝に銘じておくべきなのかもしれません。本作で、カノンが方向転換できたのは、"悪の手段"によってなのですから...。

地味ですし、全般的にはやや一本調子な上に薄味で盛り上がりに欠ける感じはしますが、振り返っていろいろと考えさせられる味わい深い作品だったと思います。そして、主演の存在感が、その味わいを見事に引き立てています。

観ておきたい作品だと思います。



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