アイ・ウェイウェイは謝らない [DVD]/アイ・ウェイウェイ,アイ・タン,カオ・イン
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中国随一の著名な現代芸術家であり、最も声高に自国を批判している艾未未(アイ・ウェイウェイ)は、2008年北京オリンピック大会の"鳥の巣"スタジアムにクリエイターの一人として参画しながらも、オリンピックの開催を糾弾し、危険分子の一人として注目されるようになります。2008年5月の四川大地震における校舎倒壊と5000人以上の学童の死についての調査をしたことにより、彼と中国政府の対立は決定的なものとなります。2011年初めの全国規模の反政府者弾圧を背景に、アイ・ウェイウェイの上海スタジオが取り壊され、81日間、非合法に身柄を拘束されてしまい...。

一人の人間の力で一国の政治を動かすことは非常に難しいこと。力強きアイ・ウェイウェイにも、国家の力が影響を及ぼしていきます。裏を返せば、彼の力が、ここまで国を本気にさせるだけの強さを持ったということなのでしょう。闇に葬られようとしていた四川大地震で多くの子どもたちが犠牲となった背景、歴史から抹消されている天安門前広場での民主化運動に対する弾圧、そうした"負の歴史"を表に出そうとする活動は、十分に政府を怖がらせる力を持っていたのです。

アイ・ウェイウェイは、使える手段は全て総動員しながら、活動を進めます。多額の費用をかけることもなく、膨大な手間をかけることもなく簡単に世界に向けて発信できるツールを個人が持てる時代ならではの"武器"も駆使しています。そう、私たちがこうして便利に使っているブログやメールといったツールも使い方で強力な武器にもなるのです。

"身の安全より世の中を楽しくすることが大切"という言葉が印象的です。そして、"政府を恐れないのか"という問いに対する"僕は恐れ知らずではない。誰よりも恐怖を感じているからこそ行動する。何もしなければ危険は増大する。"という答え。このヘンな悲壮感や義務感、ヒロイズムに流れない感覚、そして、自分の置かれた状況に対し、恐れを自覚しているという点こそが、アイ・ウェイウェイの強さを支えているのではないかと思います。

気になるのは、本作で描かれているような中国共産党に対し、実は、憧れを持っているのではないかとも思えるような日本の自由民主党のあり方。主義主張や政治的思想は違えど、国家権力の本心は同じところにある...ということでしょうか。民主主義のオブラートに包まれているだけに、危険な面もあるかもしれません。中国以上に、私たちは、アイ・ウェイウェイのような存在を必要としているのかもしれませんし、国家権力の怖さを認識すべきなのだと思います。本作は、ただ"中国は怖い"という視点だけから観るべき作品ではないと思います。

中国の現実の一端を知るためにも、これまでの、今の、そして、これからの日本を、世界を考えるためにも、一度は観ておきたい作品だと思います。