大阪府貝塚市にある北出精肉店。牛の肥育から食肉処理、そして販売まで全て家族の手で行っています。4人で呼吸を合わせながら熟練の手つきで牛を解体し、店舗できれいに切り分けて店頭に並べます。7代目として家業を継いだ兄弟でしたが、2012年3月には102年も代々使われてきた食肉処理場が閉鎖され、これまでとは仕事の流れを大きく変えることとなり...。

肉屋に行けば、そこには、きれいに処理され、部位別、用途別に切り分けられた肉が並んでいます。けれど、それらの肉は、もちろん、初めからそのままの形だったわけではありません。牛肉が、元は生きている牛だったこと。それは、誰もが知っていることでしょう。けれど、どのようにして、"牛"が"牛肉"になるのか、その過程について意識することはあまりありません。

食べるために生き物を殺す。私たち人間は、いえ、人間ばかりでなく、多くの生物は、何かを殺して自らの命を繋いでいます。けれど、特に、殺すことで大量の血が流れたり、技術や力が必要だったり...ということがあると、"食べる"ことには大いに興味や関心を持っても、"屠畜"の過程に関わりたいと思う人はほとんどいない...というのが実情でしょう。関わりたいと思わない...というより、そこの部分を忌避したいといのが本当のところでしょう。食べたいけれど、食べられるようにするための過程は身近で関わりたくない。その矛盾は、"差別"と"職業の貴賤"を結び付けることで、"普通の人々の日常"を"穢れ"から守ろうとします。

本作は、そんな社会的な問題に目を向けながらも、単に差別を糾弾するとか、肩ひじ張った社会への問題提起をするとかいったことに必要以上にこだわってはいません。そうした背景をしっかりと見せながらも、自分たちの仕事に誠実に取り組む人々の姿を丁寧に浮かび上がらせています。牛を解体する作業の滑らかさは見事。熟練の人々の手仕事というものは実に美しいもの。これこそ"職人技"というものなのでしょう。長い年月をかけて培われてきた技の美しさに焦点が当てられ、重いものを提起する作品でありながら、清々しい明るさや温かさが感じられる作品となっています。

観る前は、屠畜場面を正視できるか不安だったりもしたのですが、残酷さよりも熟練の技の冴えを感じさせる映像で、目を引寄せられました。観終えて美味しい牛肉を感謝しながら食べたくなる...そんな映像でした。

大家族が、皆で協力して一つの仕事に関わっている北出さん家族。これは、今どき、なかなかできないこと。時代の流れや変化が激しくなり、先祖代々の仕事に従事し、技を磨き、家族皆で協力して生きていくことが難しくなる中、本作に描かれる物語は、ある意味、多くの人々の中に眠るノスタルジーを呼び覚ますファンタジーにもなっているのかもしれません。

生きること、食べること、私たちの社会のこと...。様々な問題がバランスよく盛り込まれ、いろいろと考えさせられる味わい深い作品になっています。食べる時の"いただきます"という言葉。その背景にある営みについてこれからも考えていきたいと思います。

一度は観ておきたい作品。お勧めです。


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