アルマジロ アフガン戦争最前線基地 [DVD]/ドキュメンタリー映画
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国際平和活動(PSO)の名の下、前線基地に派兵されたデンマークの若い兵士たちに7カ月間、密着撮影されたドキュメンタリー。平和な日々を過ごしていた若者たちが、タリバンを敵とする偵察活動という戦争の現場で徐々に変化を見せ...。


70年近い年月、国内が戦場となることも、直接的な形で、国外の戦場で戦うこともなくきている日本。このところ、そんな平和主義も妖しくなってきていますが、今のところ、まだ、身近な人間がいきなり戦場に駆り出され、殺し合いをせざるを得ない状況に置かれる心配をしなくて良い状態ではあります。そして、ニュースなどで触れる今この世界のどこかで起きている戦争や紛争でも、兵士と兵士が接近して命の遣り取りをするというよりは、遠く離れたところから殺傷力の高い武器を操る方法も開発されたりして、生身の人間が命を張って闘う...というイメージから少しずつ遠のいている状況もあります。


本作を観ると、戦争が、少し前まではごく普通の若者であった兵士たちが殺し合うことを基本とした行為なのだということを改めて実感させられます。


殺人を楽しんでいるとしか思えないような人物もたまにはいるというのも事実ですが、それでも、人を殺す...というのは、普通に生活する多くの人にとっては、簡単なことではありません。例え、相手を殺さなければ自分が殺されるという状況での"正当防衛"だったとしても、人を殺して全く後悔が残らないと言うことはないような気がします。そんな普通の若者だったはずの兵士たちが、"敵を殺す"行為に馴れていき、達成感まで得られるようになる。それが、戦争...。


けれど、それでも、戦争は、"怖ろしい"だけのものではありません。


一方、人は、基本的には優れた適応力を持つもの。かなり過酷な環境でも、いずれ適応していきます。そうしないと生きていけないから...。武器を取って、特別に恨みのない相手を殺す。そんなことも、日常となってしまえば、最初の躊躇も薄れていきます。"殺さなければ殺される"という戦場の環境と彼らが送り出された大義名分も、彼らの変化を後押しする力になっているのでしょう。そして、単に馴れる以上に、"日常"となった戦場においても、人は、楽しみを見つけ、喜びを見出すもの。


で、"相手が撃ってくれれば願ったり"などというセリフまで登場。敵を見つけた以上、攻撃せずにはいられなくなる、そして、攻撃する理由が欲しくてたまらなくなる。敵と対峙する状況に追い込まれることに不安を感じていた最初の頃との変化に、戦争の恐ろしさを実感させられます。


英雄として凱旋帰国しても、なかなか平穏な日常に戻れないのでしょう。最後に少なくない兵士たちがアフガンに戻ったことが示されます。極限の体験をした彼らが、同じ体験を共有できる相手は戦場にしかいなかったということなのでしょうか。


一人一人のキャラクターの描き方などが丁寧で、"本物の映像"なだけあって、実にリアルなのですが、不思議と、却って、リアリティが迫ってこない感じがします。"本当の戦い"を知らない私たちが、なかなか、その現実の中に生きた者たちの心情を理解できず、彼らを"異端"として社会からはじき、戦場に戻してしまうのも、そんなところに原因があるのかもしれません。


軍隊に居心地の良さを感じてしまう人間が少なからずいるという現実。そして、私たち、人間は、戦い、殺すことに快感を覚えてしまう性質も持っているのだということ。もしかしたら、人の命が簡単に酷く奪われていくことより、このことが本当の戦争の怖さなのかもしれません。


"何故、戻ったのか"という点をもう少し掘り下げて欲しかった気はしました。その点は残念。とはいえ、世界のどこかで常に起こっている戦争の現実の一部を観られる本作が、私たちにとって観るべき一本であることは間違いないでしょう。