スタジオジブリを捉えたドキュメンタリー。宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサー、高畑勲監督、ジブリの中核となるこの3人を中心に、スタジオジブリの日常を描いています。


ある女性スタッフの「犠牲にしても得たいものがある人はいいけど、自分の中に守りたいものがある人は長くいないほうがいい」という言葉は印象的。天才が天才として存在し得るには、そうした背景が必要なのでしょう。自分を犠牲にして才能を捧げる集団の支えがあって初めて、天才の想いは一つの形になり得るのかもしれません。


緑に囲まれ、社内の保育園は子どもたちの笑顔に溢れて、ファンタジーな世界がそこに実現しているような印象を受けますが、けれど、その世界は、己を犠牲にする人々の労働で支えられている。


本作で興味深く感じられたのは、宮崎駿監督と高畑勲監督の関係。宮崎監督の先輩でもあり、師でもあり、ライバルでもあり、共にジブリを作った同士でもあり...。複雑な感情が絡み合う関係が、仄かに、けれど、しっかりと見える形に浮かび上がってきています。恐らく、どちらの存在が欠けたとしても、今のそれぞれを取り巻く状況は実現しなかったことでしょう。けれど、共同作業を続けるには、あまりに、それぞれの想いが強過ぎたのでしょう。


そして、宮崎駿監督の息子である吾郎監督。偉大な父親を持ってしまった者の不幸がそこに見えるようでした。何故、吾郎監督の作品が、父、駿監督の作品に迫るものになれないのか、その理由が分かるような場面でした。"やらされている"意識から抜け出せない限り、決して、良い物は作れないのではないかと...。


何度目かになる"引退会見"の直前、宮崎監督は、本作の砂田監督を呼び寄せて、アニメーション制作への想いを語ります。まだまだ、制作意欲は衰えていない...ように思えるのですが...。今回の引退会見も最後のものではないのかもしれないという予感がしたりして...。


宮崎駿監督が本当に引退し、もうすぐ公開になる"かぐや姫の物語"が高畑勲監督の最後の作品となるのだとしたら、ジブリは大きくその姿を変えることになるのでしょう。取り敢えず、美術館の運営とか、様々なキャラクターグッズやDVDなどの映像の販売、管理とかは、仕事として残るワケで、ジブリの業務自体がすぐにゼロになるワケではないでしょうから、すぐになくなることはないのでしょうけれど。


様々な想いが渦巻くジブリの中、悠然と自分の時間を過ごしているように見える猫、"ウシコ"の存在感が大きいです。ウシコを登場させたことは、本作に大きくプラスになっていると思います。


日本だけでなく世界的に知られているジブリ。当然、熱狂的なファンも多いワケですが、本作の視線は冷静です。ウシコの視点に近いのかもしれません。近寄り過ぎず、離れ過ぎず。少々、物足りない感じもしないではありませんが、このバランスの良い距離感は、ジブリの熱狂的なファンというワケではない私にしてみれば、程よく、気持ち良かったです。


ジブリの謎に迫ろうとか、映画の制作過程を追うとか、そういったことではなく、ジブリという場、そのものをそのに映し出したという感じがします。宮崎駿監督がいろいろな話をしていますが、それも、インタビュアーが何かを聞き出すという感じではなく、ふとした時に、漏れてくる想いを拾い上げたという感じ。無理矢理な感じや作為が表に出ていなくて、その辺りも、本作の心地よさに繋がっているのかもしれません。


ジブリの社屋を包み込む緑の中を通り抜ける風の爽やかさが感じられるような、心地よい雰囲気の映画でした。



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