アンナ・カレーニナ [DVD]/キーラ・ナイトレイ,ジュード・ロウ,アーロン・テイラー=ジョンソン
¥3,990
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トルストイの名作「アンナ・カレーニナ」を映画化した作品。原作は、かなり前ですが、読んだことがあります。


何度も映画化されている作品で、本作は、2012年に制作された、キーラ・ナイトレイ主演のもの。本作以前の映画作品は未見です。


19世紀末、帝政末期を迎えているロシア。サンクトペテルブルクで、社交界の華と謳われる美貌の持ち主アンナ・カレーニナは、政府高官を務める夫、カレーニンに愛情を持てずにいました。仲違いした兄夫婦の関係修復のため、モスクワへ向かう汽車の中で、騎兵将校のヴロンスキーと出会います。一瞬で互いに惹かれあった2人は恋に落ちます。ほどなく、舞踏会で再会した時には、それぞれの情熱を冷ますことなどできなくなっていました。アンナは社交界も家庭も捨てヴロンスキーとの愛に生きようと決意しますが...。


自分で自分を不幸にしていくアンナ。その不幸の種を見つけ、不幸を呼び込む才能は、天才的としか言いようがありません。自分で自分を追い込んでいっているにも拘らず、それが自分で変えられる道だと言うことに気付かず、周囲に責任転嫁することしかできない姿が痛々しかったです。周囲を気遣うこともなく、自分自身のことすら守ろうとせず、その代償を支払う覚悟をすることもなく、ただ"愛"に突き進むように見えてしまうアンナ。


アンナに裏切られた夫のカレーニンにしても、不倫相手であるヴロンスキーにしても、それなりに自制心を発揮する中、アンナには、そんなもの微塵も感じられず、ただひたすら欲望のままに生きている感じがします。あまりに展開を急ぎ過ぎたのか、アンナの心の変化が唐突な感じに描かれ、その上、カレーニンが、かなり理性的で寛大で思いやりのある人物に描かれているため、ますます、アンナがしょ~~~もなく見えてきます。アンナが、ヴロンスキーに走らざるを得ないどうしようもなさが、あまり伝わってこず、単に我儘で後先のことを考えられない自己中女にしか見えなくなってしまっていて、違和感がありました。


アンナ&カレーニンと対比される存在であるキティ&リョービン。再会したキティとリョービンが、互いの気持ちを確かめ合う場面など、印象的で、キティとリョービンは、作中でそれなりの存在感を出していましたが、この2人とアンナたちの対比が、今一つ明確になっていない点は残念。


かなりの長編である原作を2時間強の映画作品に纏め上げることが、相当に難しい作業であることは分かります。本作以前の映画作品も気になるところでしょう。けれど、技巧に走り過ぎた映像も目につき、全体にかなり薄く、味気なくなってしまった感じもしました。端折り過ぎた部分があった一方、不必要に拾い上げた部分があって、分かりにくくなっている感じもしました。


衣装など、煌びやかで華やかさは感じられましたが、帝政時代のロシアの貴族社会なのですから、もう少し、"ロシア的"な泥臭さというか、重く暗い感じというか、そんなものが欲しかったです。


原作へ繋ぐ案内作品として、レンタルのDVDで観る分には悪くない作品だと思います。原作は間違いなく名作だと思うのですが、やはり、あの大作の世界を2時間程度で構築するのは不可能に近い作業と言わざるを得ないのでしょう。