愛について、ある土曜日の面会室 [DVD]/ファリダ・ラウアッジ
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サッカーに夢中な少女ロールは風変わりな少年アレクサンドルと恋に落ちます。ある日、アレクサンドルが逮捕されてしまいますが、未成年のロールは1人で面会に行くことを認められません。偶然に知り合った病院スタッフのアントワンに付き添いを頼み、面会に行きますが...。

ステファンは仕事も恋人との関係もうまくいっていません。ある日、暴漢に襲われた恋人を助けてくれたピエールと知り合います。ピエールは、彼を見て異様なほど、驚きます。刑務所に25年の刑期で収監されている親友と瓜二つなのだとか。彼はステファンに、その受刑者に面会に行き、入れ替わって欲しいという話を持ちかけてきます。一旦は、断りますが、多額の報酬に心は揺らぎ...。

アルジェリアに住むゾラに、フランスで暮らす息子が殺されたという報せが届きます。彼女は死の真相を探るため、偶然を装って、加害者の姉、セリーヌと接触し交流を深めていきます。ある日、ゾラは、誰も弟の面会に訪れないと嘆くセリーヌに、自分が会いに行くことを提案します。そして母親として知ることのなかった息子の人生を辿っていくことになり...。

刑務所の面会室に見られる3つの愛の形が描かれます。


ロールは、アレクサンドルの何が良かったのか...。それなりに日々を楽しんでいる元気なサッカー少女...のように見受けられたのですが...。


ステファンのすることはあまりに馬鹿げていて...。身代わりで刑務所、何てこと自体、かなり無謀だし、その後、ピエールに、約束通りきちんと対応してもらえる保証もなく...。大体、そこまで追い詰められる状況だったのかというと、それも、甚だ疑問。まぁ、あのエルザに振り回されているステファンだから、そこまで愚かなことをしてしまうってことなのでしょうか。スクーターを買う金欲しさって、そのために1年(あるいは、もっとずっと長い)期間の自由を犠牲にする???食べる物も寝る場所もなく、稼ぐ手段もなく...という状況なら、あり得るかもしれませんが、それにしても、もっとずっとずっと軽微な犯罪しか肩代わりする気にはなれないのではないかと...。それに、身代わりになる相手について何も知らない中で、入れ替わりがすぐにばれるのは目に見えているわけで、そうなれば、ステファン自身が罪に問われるでしょうし...。


ゾラのエピソードには、重みがありました。これも、ないっちゃないですが、でも、心情的には理解できるような感じがするし、まぁまぁあり得る感じもします。被害者遺族であるゾラにとって、唯一、被害者である愛する息子のことを分かち合えるのが、ゾラにとって憎むべき相手である加害者だという現実。


3つのエピソードが、それぞれ、1対1の関係ではなく、第三者が絡んでくる関係になっているところは面白かったと思います。ロールは、面会に行くために、"大人"の手助けが必要で、ステファンと受刑者の間にはピエールがいて、ゾラは、セリーヌに仲介されることで面会を可能にします。この"第三者"たちの存在のお蔭で物語に深みが出ていることは確か。


この3つのエピソードは、交錯することなく、バラバラのままで終わっています。ここで、ヘンに色気を出して、別々の物語の登場人物同士を絡ませたりしなかった点も良かったと思います。そう、刑務所にいる受刑者たちは、基本的に自らの意思でそこに居るのではなく、強制的にそこに居させられているだけ。当然、彼らに面会に来る人々同士の間にも、関わりはないわけで、楽しく交流しようなどという気持ちになれるような状況ではありません。それでいながら、人生の縮図が見られるような刑務所の面会室という舞台設定と、このバラバラな描き方は合っていたと思います。


ゾラ以外の2つのエピソードに、もう少し、現実味を感じさせることができていれば、もっと、"愛"を感じさせられる物語ができあがっていたと思います。ゾラの物語に重点を置いて、あるいは、それだけをメインにしながら、刑務所の面会室に訪れる人々、面会を心待ちにする人々、面会を負担に感じる人々の想いを描いていくような構成であれば、ずっと興味深い作品になったのではないかと...。