I AM/アイ・アム ~世界を変える力~ [DVD]/トム・シャドヤック,デヴィッド・スズキ,ロリン・マクラティ
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事故に遭遇して体の一部が麻痺してしまった映画監督のトム・シャドヤック。時間をかけてリハビリをし復帰しますが、その経験がシャドヤックに人生に対するまったく異なる価値観をもたらします。家を売却し、モービルハウスに住むようになったシャドヤックは科学・哲学・信仰の分野における優れた人々と議論を交わしていきます。生物学者で環境活動家のデヴィッド・スズキ氏、生理心理学やストレスについての研究を行っているハートマス財団の研究主任ロリン・マクラティ氏、1984年にノーベル平和賞を受賞した南アフリカのデスモンド・ツツ元大主教...。各分野の影響力のある人物たちと、戦争や貧困、環境問題などの根底にある現代社会の矛盾を掘り下げながら世の中や人間の真理に迫ります。


言いたいことは分かる気もするのですが...。人間の本質は、"競争"や"強欲"ではなく、"協調"や"共感"という捉え方には、疑問も感じます。確かに、協力し合うとか自分を犠牲にしても他人のために尽くすとか、それも、少なくない人間に見られる行為ではあります。けれど、自分のささやかな利益のために人を殺すのも人間。"どちらが人間の本質か"ではなく、"どちらも人間の中にある"のではないでしょうか。


この"競争"か"協力"か、どちらが本質かという思考は、とても、欧米的な感じがしますし、人間は、生来善であるのか、悪であるのかの議論に決着をつけること自体、あまり意味がないような気がします。数多くの美点があることも確かですが、醜い面を否定できるわけではないし、そもそも、何が正義で何が悪かと言うこと自体、その時の状況で簡単に変えられてしまうのですから...。


悲劇もあり、喜劇もあり、感動もあり、それが人間の社会。どの部分が善でどの部分が悪で、と仕分けし、悪を排除しようとしても、それは、無理な話。悪も善もある社会の中で、どうバランスを取っていくのか、どう折り合いをつけていくのか...ということを考える方が現実に対処しやすいのではないかと...。


作品自体は、人間という存在を温かく包む視線が感じられ、私たちの社会の中に光を感じさせる部分もあり、悪くなかったと思います。インタビュー対象の選択も悪くなかったと思いますし、いろいろと考えさせられる部分もありました。けれど、どうしようもなく、私たちの中に、私たちの社会の中に根付いている"悪"を"否定すべきもの"としか扱っていないところで、底の浅さが感じられてなりません。闇の存在が、光を存在を示すことがあるのと同じように、"悪"があるかこそ成り立つ"正義"という視点が加えられていたら、グッと深みが出たのではないかと思うのですが...。