フェリーニのローマ [DVD]/ピーター・ゴンザレス,ブリッタ・バーンズ
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幾世紀もの歴史と舞台が共存する都市ローマ。フェリーニの人生の舞台でもあり、彼の作品の舞台でもあるローマを描いた作品。フェリーニの人生に重ね、少年期(学校で教わった歴史上のローマ)、青年期(大都会に出てきた青年を迎える喧騒と猥雑のるつぼと化したローマ)、現在(長髪のヒッピー、マキシの女たち、乱れた若者文化に侵されていくローマ)、幻想のローマ(度重なる隆盛と衰退を経て生き抜いてきたローマ)の4つのローマが描かれます。


これこそ、"巨匠"の特権なのでしょう。それなりの実績を持ち、名声を得て、初めて、撮ることが許される...そんな作品です。多分、観る者のことなど考えていないのでしょうし、世間からの評価とか、興行成績とか、そんなものにも頓着していないのではないか...そんな風に思えてしまいます。普通、そんな作品は観るに堪えなかったりするのですが、それを観られる作品にしてしまうのが、巨匠のウデなのでしょう。ビッグ・ネームの持つ催眠力の影響も、少なくはないのかもしれませんが...。


それでも、こうした映画を作るために、莫大な資金を集め、技術のある人を動かし、力のある演技者を揃えるには、巨匠の名前は大きな意味を持つワケで、まぁ、いろいろな意味で、巨匠、フェリーニならではの作品なのだと思います。


ローマへの愛憎が溢れています。ローマへの憧れを抱きながら成長した青年が、田舎から夢の大都会、ローマにやって来て、功成り名遂げるワケですが、世の常として、時代の波は彼の"夢のローマ"を崩していきます。これまでも、様々に表情を変えてきた都市なのですから、そして、だからこそ、滅びず現代まで存続してきたのでしょうから、当然、未来に生き残るためにも、これからも変化を繰り返していくことになるのですが、愛し憧れた都市の姿が変えられていく...というのは、耐え難いことで、そこに力を注ぐ若者を許せないのでしょう。かつて、彼も、そんな若者の一人であったことでしょうに...。


古き良きローマを懐かしむ気持ちと新しいローマを良きものの破壊者として捉える視線。撮影当時の"現代"から、既に40年以上が経っていますが、「"現代"の若者たちは無気力で伝統や文化の破壊者、過去の人々はエネルギッシュで創造的」という構図は、本作の過去においても、本作の現代においても、それから40年以上経った私たちの現代においても、変わらないものなのかもしれません。かつてのエネルギッシュなローマの風景に対しても、"イマドキの若者は..."と眉をひそめた人々がいたであろうことを考えると、人間の営みが可笑しくも愛おしくも思えてきます。


いくつかの場面が何の脈絡もなく繋げられているので、どこから観始めても、どこでやめても困りません。この辺りは、忙しいDVD鑑賞者への気配り...なワケありませんが...こうした作品の場合、気軽につまみ食いする感覚で観るのも悪くないような気がします。

「自滅する世界を眺めるのにローマほどふさわしいものはない」というアメリカ人の作家の言葉が印象的でした。人間は死ぬべくして生まれ、都市もいつか滅びる運命の元、建設される...まぁ、人々が生活し、都市が造られている地球そのものがいつか滅びる存在なわけですから、いつか滅びることは確実なのですが、それを眺めるには、人生はあまりに短いかもしれません。


まぁ、それにしても、強いが伝わってきて、その想いの純粋さ、一途さが切ない程でした。