パリ在住の80代の夫婦、ジョルジュとアンヌ。ともに音楽家で、娘のエヴァはミュージシャンとして活躍していて、充実した日々を送っていました。ある日、教え子が開くコンサートに出向きますが、その翌朝、アンヌに異変が起こります。病による発作だと分かり、手術を受けますが、後遺症として、半身まひが残ります。家に帰りたいというアンヌの強い願いを受け、ジョルジュは自宅で彼女の介護を始めます。けれど、少しずつアンヌの症状は悪化していき...。


ジョルジュがアンヌに話す幼い頃の話。家を離れキャンプに参加したジョルジュは、母親への葉書に楽しくないサインとして星を沢山描きます。嫌いなものを無理矢理食べさせられたり、病気になったり、そんな思いでさえ、時間の流れの中に洗われて星のように輝く想い出になるということなのでしょうか。


介護に疲れ、アンヌを叩いたこともあったジョルジュの脳裏に最期に浮かんだ妻の姿は、家事をこなし、見事にピアノを弾いた輝いていた頃の姿。例え、その時には、辛く嫌な体験だったとしても、振り返れば綺羅星の如く輝ける想い出となり得るということなのかもしれません。


アンヌと2人の世界に生きようとするジョルジュは、外界との繋がりを少しずつ絶っていきます。それは、アンヌのプライドを守るためでもあったのでしょう。その結果、ジョルジュ自身を追い込むことにもなりました。けれど、もしかしたら、それこそジョルジュの本望だったのかもしれません。自分自身の全てを捧げられる程の強い愛。それは、娘であるエヴァにも、専門職である看護師にも、立ち入れない世界。


何もせずにジョルジュを非難するエヴァの姿は、観る者に嫌悪感すら抱かせますが、彼女の苛立ちは、両親の愛から疎外された寂しさからくるものだったのかもしれません。


エヴァは、両親の愛を確認することができたから、寝室から聴こえてくる2人が愛し合う声が好きだったとジョルジュに話します。ジョルジュとアンヌの愛は、最期まで密室の中で紡がれたのかもしれません。実の娘にも立ち入ることも、覗き込むこともできない2人だけの愛...ということなのでしょうか...。何もかもを捧げ合い、命さえ奪う程の愛。


それは、愛なのか、身勝手な自己満足なのか...。ジョルジュの行為を手放しで肯定する気にもなれませんし、この2人の間にあるものを至高の愛と持ち上げる気持ちにもなりにくいのです。けれど、そのために命すら犠牲にできる程のものに出会えた人生が幸せなものであることは間違いないでしょう。


作中で起こっている出来事は、老々介護が行われている家庭の中において起こり得ることとして知られているものばかりです。むしろ、経済的に豊かな家庭ということや、ジョルジュがそれなりに覚悟を決めて臨んでいるということもあり、現実の多くの家庭に比較すれば、平穏な部類に入ることでしょう。タイトル通り、本作で描かれているのは、やはり、"愛"であって"介護"ではないということなのかもしれません。


ジョルジュ役のジャン=ルイ・トランティニャンとアンヌを演じたエマニュエル・リヴァが、それぞれに熱演。この2人の演技だけでも十分に観る価値ありです。


途中で、やや、中だるみな感じがあったり、2度目の"鳩"のシーンは、少々、長い感じがしたり、ちょっと気になる部分もないではありませんでしたが、深く胸に沁みる作品でした。お勧め。



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