あなたへ DVD(2枚組)/高倉健,田中裕子,佐藤浩市
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北陸のある刑務所の指導技官、倉島英二のもとに、亡き妻、洋子が残した絵手紙が届けられます。そこには、1羽のスズメの絵とともに"故郷の海を訪れ、散骨して欲しい"との想いが記されていました。そして、もう1枚は、洋子の故郷、長崎県平戸市の郵便局への"局留め郵便"でした。その受け取り期限まで、あと10日。洋子は、何故、その手紙を直接倉島に渡そうとはしなかったのか...。倉島は、洋子の真意を知るため、彼女の故郷を訪ねることにし...。


倉島英二を演ずるのは、高倉健。本作は、まさに、高倉健ありきの、高倉健のための映画といって良いでしょう。それ自体が悪いとは思いません。高倉健が、その価値がある俳優だとも思います。けれど、あまりに高倉健に対して気を遣い過ぎている感じがハナにつきます。寡黙で朴訥で一途で純な男性。その彼の中に秘められた情熱。そこにあるのは、"昭和のカッコ良さ"。ある意味、イメージ通りの役柄なのですが、それだけに既視感があり過ぎて、観ていて面白みが感じられませんでした。高倉健への大きすぎる配慮が、彼の本来の魅力を眠らせてしまったような気さえします。


ただ、それにしても、いくら、高倉健とはいえ、やはり、年齢を考えるとロード・ムービーは無理があったのではないでしょうか。もっと、動きがなくてもすむような役を考えるべきだったのではないかと...。大体、本作の年齢設定は、実年齢よりもかなり下ですし...。もっと、実年齢に近い設定にして、身体を使った動きが少なくてすむ役どころにすれば、リアリティのある演技となったのではないかと思うのですが...。


倉島は、旅の途中で車上荒らしや強引な弁当屋と出会うのですが、彼らとの出会いや彼らとのエピソードの展開も強引というか、都合が良過ぎるというか、リアリティがないというか...。あまりに取ってつけた感じに違和感がありました。大体、行きずりの倉島に弁当の仕込みを手伝わせるなんて、あり得ないですよね。そんな会社だから、南原も何の疑問を持たれず勤めることができたのかもしれませんが...。


ラストの展開もよく分かりません。どうして、倉島に真実が分かったのか...。それに、倉島の職業とか、それまでの彼のプロ意識を考えれば、あの行動にも疑問が残ります。


他の誰かに想いを寄せていた洋子が、倉島と結婚し、倉島とどんな関係を築いたのか、元内縁の夫の状況を考えると刑務官である倉島との結婚することに、それなりのハードルがあったのではないかと思うのですが...違うのでしょうか...。洋子の"元内縁の夫との関係の清算"と"倉島との新しい関係の構築"の物語が見えてこなくて、洋子の故郷に向かう倉島の想いが今一つ伝わってきませんでした。


倉島が感情を外に出さない上に、洋子が自分の気持ちをはっきりと表現しないので、夫婦の物語が分かり辛くなってしまったのではないかと思います。


それに、局留めで届けられた葉書もいくら何でもな内容です。わざわざ遠くまで旅をさせておいて、あれはないような...。夫である倉島に対する恨みつらみのようなものがあったということなのかと勘繰りたくなりました。


亡き妻の想い出を求めて旅をし、気持ちを整理し、一人の新しい生活を始めるためのエネルギーを蓄えていく...。面白くなる可能性が十分にある題材なだけに、豪華キャストが揃えられているだけに、こうなってしまったのは残念です。


日本映画史に残る俳優の一人であることは間違いない高倉健なのですから、これを最後の主演作とせず、今の高倉健の魅力と力を最大限に引き出せる一本に出て欲しいものです。