アジアの純真 [DVD]/韓英恵,笠井しげ,黒田耕平
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2002年秋、北朝鮮による拉致事件で反朝鮮感情が蔓延する中、チマチョゴリを着た在日朝鮮人の女子高生が、チンピラに殺害される事件が発生。チンピラに絡まれているところを彼女に助けられたことがある少年は、偶然、事件現場に居合わせたのですが、彼女を助けるための行動を一切起こすことができず、彼女を見殺しにしてしまいます。少年は、数日後、殺害された女子高生の妹に出会います。彼女は姉を殺された悲しみと、姉を見殺しにした人々への怒りで満たされていましたが、少年も、そんな彼女に共感を覚えます。やがて、第二次大戦から残された毒ガスの瓶を発見した2人は...。


右翼から批判されている映画だというのは聞いていましたが、成程ですね。いくつか人が殺される場面が登場しますが、在日朝鮮人女子高生が殺される場面は、殺される状況、葬式の様子など、細かく描写されますが、拉致被害者家族の集会に乗り込んだ2人が毒ガスを撒く場面では、人が死ぬ場面はスルーされます。さらに、殺された在日朝鮮人女子高生は、少年を救った英雄だし、拉致被害者の救出を訴える被害者家族の姿は醜悪な感じに描かれています。確かに"反日映画"と言われても仕方ないところでしょう。


実際、これまでにも、北朝鮮が何かやらかした時に、在日朝鮮人バッシングがあったり、朝鮮学校の生徒に対する嫌がらせがあったりしたわけで、そんな形で憂さ晴らしをしようなんて卑怯だし、醜悪なことだと思います。(とはいえ、尖閣諸島や魚釣島に関連した中国や韓国における反日の動きを見ると、そうした事件よりも、遥かに度を超えて酷い感じはして、つくづく、日本は平穏だと実感したりもします。もちろん、だから、日本で行われた程度のバッシングは許されるということにはなりませんが...。)


で、日本が過去の歴史に向き合わないことは許せないけれど、拉致問題に関しては"自分たちは関係ない"と言い切ってしまっている辺りも気になります。しかも、本作の空気感の中では、それが受け入れられている感じ。"拉致問題に在日朝鮮人は一切関係ない"なら、"過去の戦争責任は現在の日本人が追うべきではない"ということになるような...。


まぁ、それはさておき、何だか支離滅裂感の拭えない作品です。作中で、カラオケに行った主人公たちがPUFFYが歌った"アジアの純真"を歌いまくるシーンがありますが、そう、あの歌の歌詞のような脈絡のなさです。特に取ってつけたようなラスト約20分。全体に雑な感じがします。


何を考えているのかよく分からない少年。拉致事件についてのニュースを家族で見る場面でも、少女の怒りを受け止める場面でも、少年自身の感情は、ほとんど表出されません。ただ、少女に振り回されているだけな感じ。


自分なりの考えというものを持てずにいる少年と自分の中の怒りをどう処理して良いかわからない少女。自分の居場所も持てずにいるそんな2人が、"この国でもあの国でもないどこか"に行こうとしています。もちろん、そんな都合の良い"どこか"などあるはずもなく、通常、人は、子どもから大人になる過程で、自分が生きる制約のある現実の中に自分なりの居場所を創り出すものなのでしょうけれど、2人は、それを現実ではない、死や幻想の中に見出してしまった...ということなのでしょうか...。


政治的な面を持たせながら、途中からは、少年、少女が子どもから大人になる過程で挫折していく、いかにも青春な物語が前面に出され、何だか、中途半端な印象の作品になってしまっています。もっと、少年の自我のなさや少女の苛立ちをそこに絡めて丁寧に描いていれば、面白くなったのではないかと思うのですが...。


全編を白黒にした意味合いもよく分からない...というか、普通にカラーで全く問題なかったような...。まぁ、「頭でっかちで世間をしらない理論派の"ゲージツ家"が真面目に一生懸命作った、お金儲けを一切考えない自主映画的な作品」といったところでしょうか。好きな人は好きなんでしょうね。