アジアの嵐 [DVD]/ワレリー・インキジノフ
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イワン・ノヴォクショーノフ原作を映画化。1920年代のモンゴルを舞台に、イギリス軍によってジンギスカンの末裔に祭り上げられた男が、パルチザンの長になっていく様を描いた作品


原作はシベリアの作家イワン・ノヴォクショーノフの「ジンギス汗の末喬」。モンゴルを占領したイギリス軍とソビエト・パルチザンとの闘いを通して民族解放闘争の黎明を描いています。


本作は、1928年に製作されたサイレント作品に1949年に吹き替えによるセリフとサウンドが加えられたトーキー版。


1920年代。モンゴルの荒漠たる広野に育った猟師パイルは、病床の父親から渡された珍しい銀狐の毛皮を売りに町の市場へ行きます。けれど、白人の商人に不当に安く買いたたかれることが多く、パイルは、猛抗議。軍隊が出動する騒ぎとなります。山中に逃げこんだパイルはソビエトのパルチザン部隊とめぐり会い、部隊の一員に加えられます。機会あればモンゴルの地を侵略しようとしていたイギリス軍と戦闘になり、パイルは捉捕えられます。イギリス軍はパイルの持物から、彼がジンギス汗の末喬であることの確証を見つけます。イギリス軍はパイルをモンゴルのかいらい王にまつりあげますが、彼は、イギリス側の陰謀を見破り、宮廷を飛びだし、モンゴル人の部落へと馬を走らせます。そして、彼はモンゴル人の先頭に立って、民族解放の闘いの火ぶたを切ります。


ソビエト目線の作品で、資本主義の権化であるアメリカやイギリスが徹底的に悪く描かれています。資本主義者は、それぞれの民族の文化を尊重しようとはせず、搾取し支配しようとするという主張が強烈に見て取れます。そして、そこから脱するには、甘言に弄されず、本質を見抜き、民族のために戦うこと。


ソビエトは自分たちをアジアに位置付けているというのは、少々、意外な感じもしますが、確かに、世界地図や地球儀をみてみれば、ヨーロッパから見れば中心部から随分と離れた外れた場所に位置し、その広大な土地の多くは、アジア大陸に広がっています。


ただ、これは、だからこそ、腐った欧米に対抗するためには、先進的な政治体制である共産主義国家を実現したソビエトの元にアジア諸国が統合されるべきという考え方に繋がりやすく、ソビエト連邦にアジア民族を併合することを正当化する方向に流れる危険性を秘めているわけですが...。


世界においてその存在感を強めていっていたアメリカが巨大な悪として描いたソビエトも、その後、周辺に社会主義国家を作り、実質的に支配するようになります。ひとたび、権力を手中にしてしまうと、その権力を行使したくなってしまうのは、資本主義国家であっても共産主義国家であっても何ら変わりはしないということ。


多くの社会主義国家が社会主義を捨てた今の私たちの目から見れば、新しい社会を築こうという意気込みと理想の国家建設に燃える姿には、ソビエト連邦が崩壊し、痛々しさ、切なさが重なりもします。


理想を実現させ、その理想を美しい形のままで維持することがいかに難しいかを実感させられる作品にもなっています。


サイレント作品に吹き替えのセリフと音声が加えられていますが、音楽や効果音はヨシとしても、セリフは無音のままで良かったような気もします。やはり、サイレントの演技と音声セリフ付の演技の在り様は違うような...。