アニマル・キングダム [DVD]/ジェームズ・フレッシュヴィル,ジャッキー・ウィーヴァー,ベン・メンデルソーン
¥3,990
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オーストラリア、メルボルン。母ジュリアと2人暮らしをする17歳の高校生ジョシュアは、その母が麻薬の過剰摂取で死亡したことを機に、長く疎遠だった祖母ジャニーンのもとに引き取られます。祖母の家には、ジュリアの兄弟でジョシュアの叔父にあたるアンドリュー、クレイグ、ダレンの3人が同居していました。一見、家族思いで温厚な人物に見える彼らですが、実は全員が銀行強盗や麻薬の密売など、あらゆる凶悪犯罪で生計を立てており、ジャニーンもそんな息子たちの犯罪を裏で仕切っていました。アンドリューの親友バリーも、一家と家族ぐるみの付き合いをしながら多くの犯罪を計画していました。他に行くあてもないジョシュアは、やがてそこでの生活に馴染み、高校のガールフレンド、ニコールを家に連れてくるまでになりますが、いつまでも一家の犯罪に無関係でいることはできず...。


犯罪一家で、数々の大きな罪を犯しているらしいのですが、明確な証拠はなく、警察も正攻法では手が出せない...という設定のようですが、それにしては、この一家の主導権を握っているアンドリューが小物過ぎるのです。行動にあまりに計画性がなさ過ぎるのです。十分な準備もない復讐とか、キレて無用な殺人を犯してしまったりとか...。"証拠を残さない犯罪"で生活していくためには、相当の計画性と冷静さが必要なはず...なのですが...。


ジャニーンや弁護士が、兄弟の衝動的な犯罪の後始末をしてきたというなら、証拠隠滅のための動きなども必要だったでしょうし...。


一家の犯罪がどのように行われ、どのように処理されてきたのか、その辺りが見えてこないので、彼らの"悪さ"が感じられず、作品全体の味わいが薄くなってしまっている感じがします。一家の生活に嫌気がさして、連絡を絶っていた様子のジョシュアの母ですが、彼女もオーバードーズで死んでいるわけですし、ジョシュアもその母の横で無表情にゲームを続けているわけですから、ジョシュアだって、それなりに"壊れて"はいるわけですよね。


予告編等から犯罪一家に投げ込まれた無垢の青年の物語という印象を受けたのですが、そうとも言えないような...。一家も一家なら、ジョシュアもジョシュア...なんですよね、結局...。まぁ、彼がおかれた生育環境の問題は、彼自身の責任ではないのですが...。

で、アンドリュー以上に無茶苦茶なのが、ダレン。アンドリューよりもキレやすく、小心で、小者感たっぷりです。比較的、どっしりと構えているのが兄弟の母、ジャニーンですが、証拠を残さない犯罪を計画できる程の明晰な頭脳の持ち主のようにも思えません。この一家が、どうして、"犯罪を繰り返しながら起訴されることもなく安穏と生活"できるのか、分かりませんでした。


多少、警察内部にコネがあるとはいえ、それだけでどうにかなるほどのご立派なコネでもなさそうでしたし...。まぁ、警察の方も酷いものなので、犯罪者側にあれこれ不手際があっても見逃されていた...ってこともあるのかもしれませんが...。


実話ベースと言うことなので、この辺りの設定が実話通りなら、どうしようもないのですが...。それにしても、もっと説得力のある描き方をしてくれても良かったような...。


ジョシュアの最終的な決断については、いろいろ考えさせられます。そして、ラストへ至る展開は巧く描かれていたと思います。ジョシュアの証言の場面を見せず、どんな証言をしたのかが分かるような描写。そして、ジョシュアの決断と居場所を得たのか失ったのか、明確には判断しがたい結末。果たして、彼は、本当の居場所を見つけたのか。


犯罪一家に染まることもできず、かといって、警察の保護能力を信頼することもできず、一家からも警察からも離れて自立することもできず...。何と言っても広いオーストラリア。犯罪一家とは言え、全国的に力を持っているような大物ではありませんし、本作に登場するメルボルンの警察の能力を考えると、メルボルンから離れたところに行けば何とかなるような気はするのですが...。


成長の過程で自立するための力を育ててもらうことができずにきた青年の悲劇...ってことでしょうか。で、そんな彼の最後の決断。さて、これは、吉と出るか、凶と出るか...。ラスト、ジャニーンはジョシュアをハグしますが、少々、おざなりな感じもしたりして...。


ジャニーンは、一度は、アンドリューたちのためにジョシュアを切り捨てようとしたわけです。アンドリューの無茶苦茶に辟易していた面もあったとはいえ、ジョシュアを本当に受け入れるのかどうか...。


この余韻の残すラストは印象的でした。一家の面々のキャラクター設定がもっとそれらしくできていたら、ずっと面白い作品になったような気がして残念です。