不惑のアダージョ [DVD]/柴草玲,千葉ペイトン,渋谷拓生
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若き日に神に身を捧げることを決意し、シスターとして、規律に従って生きてきた真梨子。40歳を迎えた彼女は、誰にもいえない“からだ"の変化を抱えていました。そんななか、教会に通う女性からバレエ教室のピアニストを頼まれます。戸惑いながらも、引き受けた真梨子は、教室へ通ううちに、演奏する楽しさを感じるようになり...。


女性として生まれ育ちながら、女性的な部分を切り捨て、信仰に生きる修道女。そんな修道女の中の"女"に光を当てた作品です。特に40代後半以降の多くの女性たちには切実な問題であろう更年期の問題を、修道女として生きるために神に捧げた"女"の部分が、元々の目的のために使われることもないままに、身体の中から消えていく現実に直面した真梨子の姿を通して描いた点が印象的でした。


ただ、気になるところもいろいろ。真梨子の生活が現実のシスターの生活とあまりにかけ離れているところ。シスターは教会に付属する施設で共同生活するわけで、自分用の風呂を持っているってことは普通ないような...。あの教会には、シスターは一人で、部屋や風呂も一人で使っていると言うことでしょうか...。そして、毎日の日課はしっかり決められていて、自分の都合で行動する自由も、暇も、ほとんどないのではないかと...。真梨子自身、バレエの伴奏を頼まれた時、「神父様の許可がないと外出はできない」と言っていますしね...。産婦人科通院は、その外出のついでに行ったってこと?


40歳の真梨子が、「"切符"を使わないうちに、"切符"がなくなってしまった」と言っていますが、普通、もっと後ですよね。日本女性の場合、標準的には51歳ちょっととのことですから、ちょっと早過ぎるのではないかと...。普通の感覚では、40代に入って、少しずつ更年期を感じるようになるってところなのではないかと...。


暗転する回数が多く、しかも、1回の時間が長いのも集中力が削がれます。かなり短い作品なので、余計にめっだってしまったのでしょう。


そして、何よりも、残念だったのは、彼女の信仰や修道女としての生き方について、あまり、触れられていなかったこと。そこが薄いために、真梨子の"女としての悩み"が深まらなかったのだと思います。修道女になると言うことは、女性としての大事な部分も含め、すべてを神に捧げるということ。そして、一人前の修道女になるまでには結構な年月がかかるもので、その間、何度も、修道女として生きる決意の固さを確認されるもの。そうした過程を通った真梨子の中に何が起きたのか、肝心なところが霧に覆われた感じで消化不良でした。


真梨子がシスターであるという設定も、年齢の設定も、本作で大きな意味を持つ設定のはず。その部分には、もっとしっかりとこだわって欲しかったです。そこがあれば、彼女の中に湧き起こる戸惑いをもっと切実に感じられたのではないかと思います。


西島千博のバレエがさすがに魅力的だったり、ピアノ伴奏の役割を終えることになってから教室を訪ねた真梨子が一人踊っていた彼の伴奏をするシーンの映像が心に沁みる美しさだったり、初潮を迎えて戸惑う女の子に葉っぱを一枚一枚手渡しながら話をするシーンとか、真梨子の表情が豊かになっていく過程の描き方とか、脳裏に残る場面もところどころにあり、細部をもう少し丁寧に作り上げていれば、もっとずっと印象的な作品になったと思うのですが、それだけに残念です。