明日泣く【DVD】/斎藤工,汐見ゆかり,武藤昭平
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色川武大の同名短編小説を映画化した作品。原作は未読です。


22歳で文芸誌の新人賞を獲得し注目を集めながら、その後、全く書けなくなり、賭けマージャンに明け暮れる武。ある日、知り合いのミュージシャンの島田に連れられて入ったジャズクラブで、高校時代の同級生、キッコと再会します。ジャズピアニストとしての地位を確立するため、男たちを振り回すキッコに、何故か惹きつけられますが、その一方で、どこか冷ややかな視線を送る武。"ニューオリンズ生まれ"を自称するキッコは、アメリカのニューオーリンズから来た憧れの黒人ドラマーと"定岡菊子トリオ"を結成しますが、仲間へのギャラの支払いに困り、マージャンをしていた武に金を無心。けれど、武に貸せる金があるはずもなく...。


不思議な感覚の作品でした。どこか中途半端。武のヤサグレ感が薄かったり、島田陽子演じるギャンブラーの物語への絡み方が物足りなかったり、昭和の雀荘がやけに平和な雰囲気だったり、昭和の香りたっぷりなのに路地の風景は平成だったり...突っ込みどころはいろいろあります。けれど、それなのに、何か惹かれるものを感じてしまったり...。


黒い電話、赤い公衆電話、喫茶店(カフェではなく)、公衆の場で堂々と吐かれる紫煙、作家と原稿用紙にペン、そして、携帯電話の不在。昭和が色濃く滲んでいる作品です。島田陽子、梅宮辰夫というさすがの存在感を示すいかにも昭和な2人が出演していることも大きいのでしょう。


そして、キッコの生き方。先の見えない、危うげな、けれど、明確な意思を感じさせるその歩みには、どこか、人を惹きつけるものがあります。昭和の時代には、まだ、こんな生き方が許容されていた部分もあったのかもしれません。


好きなことができるのなら、野垂れ死んでも仕方ない。いろいろなものを背負い込んで生きざるを得ない人は多く、なかなか、そこまで思い切ることはできないものです。そして、重荷を背負いながら正しき道を歩むことこそ大人のあり方なわけです。世の大人の多くは、真っ当で地道な自分の生き方に誇りを持ちながらも、自由奔放な生き方に憧れや羨ましさを感じずにはいられない。その憧憬が、観る者を本作に惹きつけるのかもしれません。


武役の斎藤工がどちらかというとイマドキ男子なのは、少々、残念な気もしましたが、今の世の中、武に相応しい昭和な俳優を探すのは難しいということなのかもしれません。まさに"昭和は遠くになりにけり"。


ジャズ演奏が良かったです。もう少し、演奏の場面の割合を多くしても良かったような...。まぁ、兎も角、観て良かったです。地味ですが、一見の価値ある作品だと思います。