愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 [DVD]/ジョヴァンナ・メッゾジョルノ,フィリッポ・ティーミ,ファウスト・ルッソ・アレン
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20世紀初頭、祖国イタリアを救おうと立ち上がったムッソリーニ。彼の熱のこもった演説を聞いた女性、イーダは、彼に惚れ込み、すべての財産を彼に貢いでその活動を支えます。ムッソリーニは、イーダから得た資金でファシスト党を組織し、その勢力を拡大していきます。やがて、2人の間に息子が生まれます。ところが、イーダは、ムッソリーニには既に妻と子がいることを知り...。


凄まじいばかりの激しさです。もはや、愛とは思えません。成程、彼女がムッソリーニの活動資金を支えたのかもしれません。そのお蔭で彼は世に出ることができたのかもしれません。でも、ここまでやられたら、ムッソリーニが逃げるのも当然のような...。


ムッソリーニに迫っていく段階で、全く"戦略"というものを考えようともしていない風なイーダ。それは、純粋さゆえと解釈すべきなのかもしれませんが、あまりに無垢な純粋さは周囲も自分自身も深く傷つけるもの。彼女の剥き出しの鋭い刃は、周囲からは危険視され、彼女の心をも深く抉ります。


「ムッソリーニを一番理解しているのは自分」だと、イーダは主張しますが、その姿には、狂気と哀しさが漂います。


収容された精神病院の柵を登り、病院の職員に投かんを依頼して断られた手紙を投げるイーダ。ムッソリーニ、国王、教皇...その手当たり次第な感じに、彼女の狂気と紙一重の純粋さ(または、純粋さと紙一重の狂気)が現れているようです。この柵を登って紙をばらまくというシーンはクライマックスにも登場しますが、訴えても訴えてもその言葉を取り上げてもらえることのない彼女の哀しみが迫ってくる場面となっています。この場面を観ると、それまでの彼女の言動から抱いていた彼女に対する嫌悪感のようなものが一気に抜けていく感じがします。


病院を抜け出したイーダが警察官に連行される場面。それを阻止しようと大勢の村人が集まります。故郷の人々は彼女の真実を知っていた...ということなのでしょうか。この場面が入ることで、イーダの"真実"にリアリティが与えられます。イタリアに、ヨーロッパに、世界に狂気が吹き荒れていた時代、狂っていたのはイーダなのか、世界なのか...。


そして、その狂気はイーダから息子のベニートに受け継がれていきます。そう、この若きベニートこそ、本作の最大の被害者。イーダの自身のムッソリーニに対する感情への強すぎるこだわりが息子の人生を決定付けたのでしょう。この息子の運命が実に痛ましいのですが、イーダが恋したムッソリーニと息子ベニートの2役を演じたフィリッポ・ティーミが若きベニートとして登場するクライマックスからラストにかけてが見事。


正直、前半部では、登場人物に気持ちを寄せることも難しく、ストーリーの流れ方にも澱みがあり、集中が途切れがちでしたが、クライマックスになると、グッと気持ちを惹きつけられました。この終わりの30分程の時間帯のために耐えてきたかいがあった...といったところでしょうか。


映像は美しかったです。歴史絵巻を描くのに相応しい重厚な雰囲気で、印象的でした。