傷害罪で禁固6年の判決を受け、コルシカン・マフィアが支配する中央刑務所に収監されたアラブ系の19歳の青年、マリク。彼は、ある日、コルシカン・マフィアのボス、セザールから殺しの依頼を受けます。要求をのまなければ殺されるという状況の中、迷いながらも殺人を実行します。無学で本を満足に読むこともできなかったマリクは、徐々に知識を身につけ、経験を積み、過酷な環境の中で生き延びる力を育んでいき...。
コルシカ人とアラブ人と黒人と...。人種、民族、宗教の違いによる反目。ほとんど外の社会の縮図となっています。そして、閉じられた狭い空間になっているだけに、外の社会以上に、いろいろな問題が濃縮されて現われている感じがしました。
セザールに見出されてしまったマリク。生きるためにはセザールに従わないわけにはいかず、セザールの意思に翻弄されます。けれど、マリクは賢かった。次第に、自身の能力を磨き、アラブ人でありながらも、コルシカ人のセザールのもとで、存在感を出していきます。
けれど、セザールにとって「アラブ人はアラブ人」。民族の壁などそうそう乗り越えられるものではないことを思い知らされる時がやってきます。マリクは、いくら努力しても、コルシカ人にとっては異質の存在。きっと、セザールは、彼がマリクに投げつけた言葉の威力を理解することはなかったでしょう。足を踏んだ者と踏まれた者の差がそこにあります。
マリクが賢かったのは、セザールのもとでは"コーヒー係"に徹したこと。そこに疑義を抱きながらも、マリクに対して必要な警戒を怠ったのは、セザールの奢りなのでしょう。
反発しあうグループ間で、マリクはしたたかに生き残り、それだけではなく、大きな力を獲得していきます。刑務所に収監された時から、徐々に変貌を遂げていくマリクの表情と態度。そこには、確かな成長を見て取ることができます。どんな環境にあっても、人は、成長できる可能性を持っているのかもしれません。
けれど、彼のしてきたことは、やはり、犯罪。外に出た後、彼に、堂々と太陽の下に出られるような形で明日が開けるのか...ということになると、はなはだ疑問ではあります。けれど、セザールに魅入られてしまった彼に、他に生きる道はあったのか...。実社会の中では、やはり、マイノリティのマリク。前科があるということになれば、なおさら、堅気に生きることは難しいもの。例え、厳しくとも、その道で人生を支えていくしかないのかもしれません。
手放しでハッピーエンドな終わり方をする作品ではありません。けれど、裏社会で生きていくことになるであろう、そして、犯罪と縁の切れないであろうマリクを応援したくなってしまうような作品です。
地味な扱われ方をしている作品ではありますが、一見の価値ありだと思います。
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