16世紀のネーデルランド絵画の巨匠ブリューゲルが残した名画『十字架を担うキリスト』を、映像で再現したドラマ。


十字架を背負わされ歩かされるキリストの姿を中心に、けれど、目立たなく描き、数多くの人々の姿を描いたブリューゲルの作品に登場する数多くの人々の物語が紡がれます。


実際にイエスが処刑されたとされるのは起源後28年頃のイスラエル。ブリューゲルが描いたのは彼に馴染みのアルネーデルランドの風景であり、彼と同時代の衣装を纏った人々。つまり、画家自身が生きた時代に処刑されようとしているキリストを登場させたということになります。


キリストと同時代の人とは違い、処刑された後のキリストがどうなるかを知っているはずの人たち、キリスト教という宗教が、それなりの大きな勢力になり、相当の権力を持つようになったはずの時代。自分たちの信仰する宗教で救世主とされる人物がそこにいるというのに、絵画に登場する人たちは、その存在に気付かない様子。


すでに、キリスト教は、キリストが説いた教えから離れてしまっているということなのか、人は、本当に大切なものを見過ごしてしまうものだということなのか...。キリストの死を嘆いているように見受けられるマリアの視線でさえ、キリストに向けられているようには見受けられません。


絵と映像の交わり方が見事で、描かれた人々がそのまま三次元の世界にやってきたかのような映像が印象的でした。絵の世界そのものを立体化することへのこだわりが実に徹底していて、細部までしっかり造りこまれた映像になっています。


物語がその分薄くなってしまっているのはやむを得ないでしょう。いえ、むしろ、もっと薄くしても、ブリューゲルの絵そのものをもっと見せて欲しかった感じがしますし、二次元と三次元を行き来する感じがもっと欲しかった気もします。


絵自体が、十分に物語性をもっているので、映画としての物語を作ろうとするよりも、絵そのものだけにこだわって欲しかった気がするのです。


いづれにしても、他では観られない映像であることは確か。一見の価値アリです。できるなら、映画館のスクリーンで。東京では、渋谷のユーロスペースで公開されていますが、本当は、もっと大きなスクリーンで観たいところ。それも残念...。



公式サイト

http://www.bruegel-ugokue.com/



ブリューゲルの動く絵@ぴあ映画生活