アイ・アム・キューブリック! [DVD]/ジョン・マルコヴィッチ,ジェイムズ・ドレフュス,ジム・デヴィッドソン


1990年代のロンドン。バーやレストランで、スタンリー・キューブリックと名乗る男が現れ、「次の映画に起用しよう」などと人々に声をかけます。その言葉に舞い上がり、喜んだ人たちは彼に酒をおごり、ディナーの勘定を持ち、当座の金を都合します。けれど、その正体は、アラン・コンウェイというアル中で同性愛者の、キューブリックには似ても似つかぬおじさんでした。本物と似ているわけでも、本物について詳しく情報収集しているわけでもないコンウェイの化けの皮が剥がされるのは時間の問題。ついにマスコミや警察に押しかけられ、パニックで昏倒して病院に運ばれますが...。


冒頭に、「実話...のような」とありますが、アラン・コンウェイという詐欺師がキューブリック監督の名を騙り、いろいろな人を騙したことは実話。けれど、彼の人物像については、随分、創作がされているようです。実在したアラン・コンウェイは、キューブリック監督を名乗っていた頃は、旅行代理店を営んでいたとのこと。1934年、ホワイトチャペル地区(ロンドンのイーストエンドにあるユダヤ貧民街)に生まれ、13歳で窃盗のために少年院送りになります。本名のエディ・ジャブロウスキをアラン・コーン(後にコンウェイ)と変えます。いくつもの詐欺事件で有罪判決を受けましたが、妻と出会ってからは落ち着き、結婚。南アフリカへ渡りますが、コンウェイがした商取引のいくつかが調査を受けることになり、イギリスへ帰国せざるを得なくなります。帰国後、妻の助けもあり、ロンドンのウエストエンドにあるハロウで、旅行代理店のオフィスを持つことができたとのこと。


ジョン・マルコヴィッチがキューブリック監督に似ているとは思えませんでしたが、実際のアラン・コンウェイも、決して、キューブリック監督に似ていたわけではないようで...。そして、特に似るための努力をしてはいなかったようで...。それでも、しっかり騙される人がいるというところが面白いところ。それも、一人や二人ではないのですから。


人は確かなものを信じるのではなく、信じたいことを信じるのでしょう。そういう意味では、時に、被害者自身が共犯になってしまうのが詐欺事件の悲劇であり、面白さなのかもしれません。


コンウェイの被害者たちも、コンウェイが本物のキューブリックであることを信じたというより、願ったのでしょう。だから、第三者が冷静な目で見れば難なく見破れるであろう罠にいとも簡単に堕ちてしまったのでしょう。


例え、詐欺だとバレても、被害者は恥ずかしくて訴え出ることなんてできないということになると、犯人であるコンウェイだけでなく、被害者たちも事を荒立てたくない、、事件を表に出したくないと思うもの。


詐欺として立件され、裁判沙汰になることを加害者だけでなく、被害者も望まなかったから、コンウェイは、裁かれることも罰せられることもなく、人生を全うする...。


何とも人を食ったお話ではあります。


そんな怪しげなコンウェイをジョン・マルコヴィッチが好演。本作の魅力はひとえに彼の演技にあると言って良いでしょう。


騙し騙されたが数件示されるのですが、描き方が平板なせいか、途中で中だるみを感じてしまい、集中しきれませんでした。折角の面白い題材とョン・マルコヴィッチの好演を活かすことができておらず残念です。