英国王のスピーチ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]/コリン・ファース,ジェフリー・ラッシュ,ヘレナ・ボナム=カーター
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二つの世界大戦を体験した英国の"善良王"ジョージⅥ世に纏わる実話を映画化した作品。


英国王の息子として生まれながら、子どもの頃から吃音に悩んでいたアルバート。王族としてスピーチをする機会も少なくないのですが、失敗ばかりで、すっかり自信を失くしています。そんな夫を心配し、治療の方法を探る妃のエリザベスは、スピーチ矯正の専門家、、ローグの元を訪ねます。閉ざした心に原因があると気付いたローグは、ユニークな治療法でアルバートの心を開いていきます。やがて、アルバートの父、ジョージⅤ世が亡くなり、兄のエドワードが王位を継ぎますが、離婚暦のあるアメリカ人女性に恋をしたエドワードは、彼女との結婚のために王位を捨て、アルバートがジョージⅥ世として国王になります。ナチスドイツの攻撃にさらされ、国民が、大きな不安を抱えるようになり、ジョージⅥ世は、国民を勇気付け、心を一つにするべく、渾身のスピーチに挑むことになり...。


子供の頃から重度の吃音に悩まされてきたジョージ6世は、自分に自信が持てず、内向的な性格でいた。しかし英国の王として、言語障害の専門医ライオン・ローグを雇い吃音の克服に挑戦。第2次大戦下でのジョージ6世の言葉は、国民の力強い支えになっていく。


本来ならば出会うことのない2人が出会い、立場や身分を越えた関係を築き、ずっと抱えてきた課題の克服を図り、その過程で成長していく。簡単に纏めればそんなストーリーで、まぁ、ありがちと言えます。


主人公が国王で、"善良王"と称される人気の人物だったこと。彼が国王になる経緯として"王冠を賭けた恋"の物語があったこと、本来なら国王になることはなかったかもしれない彼が国王になり、その結果、現女王が王位継承者となったこと。そんな背景があることで、興味を惹きやすい物語になったということがあるでしょう。


さらに、構成の巧さ、ジョージⅥ世を演じたコリン・ファース、ローグを演じたジェフリー・ラッシュ、ジョージⅥ世の妃を演じたヘレナ・ボナム=カーター。力のある名優たちの熱演が、本作の味わいを深めています。


実話だから史実をなぞった、ということもあるのでしょう。完全に吃音が治ってメデタシ、メデタシということではなく、吃音というハンディを抱えながらも、国王として国民を勇気付ける声を持てたというところが良かったです。問題はハンディを持っていることにあるのではなく、自信の問題ということなのでしょう。


そして、ラストでの演説。自分の言葉で喋ったのではなく、書かれた原稿を読んだだけ、吃音が完全に治って、スラスラと読んだわけでもありません。では、何が変わったのか。国王としての責任を負うことへの決意。国王として何とか国民を勇気付けようという強い想い。


純粋にテクニカルな面だけを考えれば、決して上出来とはいえないスピーチだったかもしれません。けれど、人々の心の奥底に沁み込む演説に必要なのはテクニックだけではありません。当然、ある程度のテクニックは必要不可欠なのでしょう。けれど、その上に、言葉を届ける先にいる人々への強く熱い想いが、相手に訴えかける力になるのでしょう。


ラストには、現女王であるエリザベスが父であるジョージⅥ世を迎える幼い娘として登場します。ジョージⅥ世を国王にした運命のいたずらが、ひいては、エリザベスⅡ世の登場に結びつき、今に至るのですが、この辺り、歴史の面白いところですね。


全体として、無難に巧くまとまりすぎている感じもして、そこに却って物足りなさを感じてしまったりもしますが、楽しめる作品だったと思います。


本作のラストを飾る演説は、ロンドンにナチスドイツの攻撃が迫り、イギリス国民の間に不安と危機感が高まっていた時に行なわれたもの。その辺りの背景が、もっと描かれているとこの演説の重みが、もっと切実に感じられたのではないかと思いますが...。



英国王のスピーチ@ぴあ映画生活