アグネスと彼の兄弟 [DVD]/マルティン・ヴァイス,モーリッツ・ブライブトロイ,ヘルベルト・クナウブ
¥3,990
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性転換し、女性としてショークラブでダンサーをする末っ子のアグネス、長男で政治家のヴェルナーは仕事一筋で家族の中で孤立、次男のハンスは覗きで図書館司書の仕事を続けられなくなり...。それぞれに悩みを抱えながら幸せになろうとする3兄弟を描きます。


性転換をしたショーダンサーのアグネス、政治家のヴェルナー、図書館司書のハンス...、3人とも、それぞれに外れています。けれど、一見、一番、ズレているように思われるアグネスが、人間として一番ノーマル。そして、一番、強烈なのがハンスでした。ヴェルナーにも指摘されていますが、彼自身の"悪癖"を父親に責任転嫁する辺り、相当に子どもっぽいというか、身勝手というか...。もっとも、そう指摘したヴェルナー自身、かなり我儘ですが...。


けれど、この3兄弟の愛すべきところは、それぞれが、自身の問題点について、全く無自覚なわけではないこと。ヴェルナーも不十分ながら、妻に歩み寄ろうと努力はしますし、ハンスは自助グループのような集まりに定期的に参加しています。


そして、彼らの"偏り"は、少々、極端な感じに描かれていますが、こうした偏りは、もう少し穏やかな形であったとしても、多くの人の中に存在し、そのために社会との間に多少なりとも摩擦を起こしたり、そのために周囲から阻害されたり、しているもの。変な彼らを観ながら、私たちは、自身のことを振り返らざるを得なくなります。


タイトルには、3人の中のアグネスの名前だけが入っていますが、より多く部分を割いて描かれるのが、ヴェルナーとハンス。この2人のエピソードが交互に描かれるその合間にアグネスについて触れられるといったところでしょうか。そして、2人が抱える問題が描かれるほどに、アグネスがフツ~に思えるようになり、観る者の心は彼女の存在に寄せられるようになります。


それでも、一番、解決できないものを抱えていたのはアグネスだったのでしょう。3人、それぞれに訪れるラストを観ると、アグネスの心の傷の深さが感じられます。もっとも、ハンスの問題が、これで本当に解決できたとも思えませんし、ヴェルナーにしても、結構、危うい...。


重い題材を扱っていますし、かなりブラックだったり、下品だったりもします。それでも、音楽の力もあるのか、不思議と軽妙な空気が感じられる作品となっています。


かなり下品だったり、汚らしかったりする表現も登場するので、好き嫌いは分かれるでしょうけれど長く印象に残りそうな作品であることは確か。


もう少し、彼ら3兄弟と母親の関係とか、掘り下げて欲しかった気もしますが、それをすると、救いようもな暗くなってしまうかもしれませんね...。少々、物足りなさも残りますが、まぁ、程よく仕上がっているといっていいのでしょう。


それなりに面白かったです。



アグネスと彼の兄弟@ぴあ映画生活