最後の忠臣蔵 [DVD]/役所広司,佐藤浩市,桜庭ななみ
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1703年、大石内蔵助以下、赤穂浪士四十七士による討ち入り、切腹。実は、それは「忠臣蔵」の本当の結末ではありませんでした。赤穂浪士の中には、大石内蔵助の密命を受け、討ち入り前夜に姿を消した瀬尾孫左衛門、討ち入り後、赤穂浪士の遺族たちを援助するよう命を受け、切腹に加わらず仲間の元を離れた寺坂吉衛門。討ち入りから16年、2人は再会することになります。かつては、あつい友情で結ばれた2人でしたが、吉衛門にとって、孫左衛門は命惜しさに逃げた裏切り者。あの日、孫左衛門に何があったのか...。


実在した吉衛門が生き証人としての使命を帯びて諸国を旅した史実に、内蔵助の忘れ形見を育てる役割を担った孫左衛門というフィクションを絡ませ、さらに、人形浄瑠璃「曽根崎心中」の舞台の映像を所々に挿入することで孫左衛門と可音の中に隠された気持ちを匂わせています。


主従であり、親子にも似た生活をし、"恋人未満"な関係でもある微妙な2人。もし、孫左衛門が「武士道」から自由になれていたら、孫左衛門と可音には、別の形の幸福が訪れていたかもしれません。2人の奥底にある想いが成就することを阻むものこそ武士道なのです。そして、孫左衛門の矜持を支えてきたのも武士道。武士道の美しさを描いているとも受け取れ、武士道の残酷さを描いているとも受け取ることができます。そのどちらとも決定はできない微妙なバランスを保っている辺り、技ありといったところでしょうか。


孫左衛門の忠義は美しかったのか、人間としてあまりに頑なで窮屈だったのか。2人の年齢差を考えれば、そして、可音の日常の雑事のほとんどを孫左衛門に頼ってきたこれまでの生活を考えれば、孫左衛門の選択は正しかったと言えるでしょう。可音の心のままにしていれば、彼女の生活が立ち行かなくなる時が遠からず訪れることになり、孫左衛門も死ぬに死に切れなかったでしょうから。


けれど、孫左衛門の中にも、確かに、可音に対する恋心が潜んでいます。絶対に表に出すまいという決意のもと、封じ込められたその想い。孫左衛門自身は意識すらしていない、というより、無意識のうちに意識の底に封じ込めてしまっているその想いが、時々、顔を覗かせます。その辺り、役所広司の力量により、見事に表現されています。可音を見つめる家臣としての眼差し、父親としての視線、1人の恋する男としての目。その繊細な表現が心に沁みます。


可音を演じる桜庭みなみの世間知らずで可憐で上品な雰囲気も、彼女の境遇や孫左衛門とのこれまでの生活を滲ませていましたし、もう1人の"生き残り"である吉衛門を演じた佐藤浩市も安心感のある演技力で作品を支えています。やはり、演技力のある出演陣が揃った作品は、観ていて安心感がありますし、心地よさが感じられます。


そして、同じく密命を帯びて切腹に加わらなかった吉衛門だからこそ思いを馳せた孫左衛門に与えられたかもしれない秘密の役割。この2人の友情の描写も印象的。剣を交えた後、橋の上から橋の下の孫左衛門に語りかける吉衛門。名場面の一つでしょう。


さらに、出自を知った後の可音の成長。孫左衛門に護られるだけの存在だった可音の大人の女性に成長した姿がそこにありました。


なかなか見応えのある作品でした。公開時に劇場に観に行くべきだったと悔やまれます。



最後の忠臣蔵@ぴあ映画生活