ブラディ・サンデー スペシャル・エディション [DVD]/ジェームズ・ネスビット,ティム・ピゴット・スミス,ニコラス・ファレル
¥4,179
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1972年に北アイルランド、デリー市で起こった"血の日曜日"と呼ばれる一般市民とイギリス軍との激しい抗争事件を描いたドキュメンタリータッチのドラマ。


様々な面で差別的な待遇を受けていたカトリック系住民。差別に対する抗議活動として一般市民による大規模なデモが計画されていました。反イギリス勢力を一掃したかったイギリス政府は、軍隊を派遣。軍の力でデモを制圧し、参加者たちを一網打尽にしようとします。武装した兵士が取り巻く中でデモは始まりますが、その最中、一部の若者たちが軍に投石したことをきっかけに激しい抗争が起こり...。


確かに、投石した若者たちに罪はあったかもしれません。けれど、デモの参加者たちは武器を持っていたわけではなく、丸腰。デモを制圧しようとした兵士たちは訓練され武装したプロ。これはあまりにバランスを欠いています。


兵士のセリフ、「命令に従うだけ」。自分の判断ではなく兵士としての義務を果たすために上官の命令に従っただけ。自分の行為は自身の残酷さに根ざしたものではなく、従うべき命令の通りに動いた結果に過ぎない。そう思うことで、人は相当に残忍になれるのでしょう。


自分のために自分の判断で他人を殺そうとしても、どこかで抵抗を覚えるもの。けれど、自分が従うべき誰かの判断に基づく大義のための行為だと信じた時、人は相当に残虐になれるのでしょう。人類の歴史の中で繰り返されてきた虐殺が、"敵"から「家族を護るため」「国を護るため」の手段として行われてきたように。


そして、人は恐怖心から敵を過大視し、さらに敵に対する"護り"を強化していきます。そして、その護りはどんどん強くなり、"攻撃は最大の防御"という言葉が魅力を帯びていく...。


「何故、(軍隊は)挑発する?」というデモの中心人物の一人であるクーパー議員につぶやきに対する答えは「怖いのよ。」そう、恐怖心が過大な攻撃を生むのです。敵を大きいものとして捉えることで、自分たちの攻撃を正当化できるわけですから。


さらに、事件後の兵士たちの供述。多くの兵士がデモ参加者から攻撃をしてきたと証言します。「爆弾を投げてきた」「銃を撃ってきた」。デモ参加者は武器を持っていなかったというのに。意識的に嘘をついたのか、自分の残虐な行為を認められず記憶が捻じ曲げられてしまったのか。


必要以上にドラマチックな脚色をするわけではなく、淡々と事実が描き出されていきます。過剰な演出がないことで、却って、事件の悲惨さとその背景にあるカラクリを実感させられます。


北アイルランドでイギリスが行ってきた圧政の歴史、それに反発する北アイルランドの歴史。それは、特定の地域で起こった事件ではありますが、世界中の多くの地域で同じような差別や衝突は繰り返されてきています。一つの歴史的な事件の背景を探りつつ、普遍的な人間の業を考えさせられる作品となっています。


悲惨な事件を扱った重い作品ですが、一方で希望が見えてくることも確か。その一番大きなところは、本作がイギリス人によって製作されているところにあります。過去の行為を取り消すことはできません。けれど、過去を乗り越えて未来に進むことができるということ。本作も、その過去を乗り越える一つの過程となるのでしょう。



ブラディ・サンデー@ぴあ映画生活