2000年から2009年の10年間、いわゆる"ゼロ年代"を3人の若手監督がそれぞれに描いた『ゼロ年代全景』の中の1編。他の2編は未見です。


29歳の麻紀は、小説家志望のフリーター、睦雄と同棲中。派遣で働いてはいるものの正社員の女性には嫌味を言われ、仕事にやりがいを見出せず、同棲生活もマンネリ化していて、先の見えない生活に何ともいえない不安を抱えていました。帰省した時に早くに結婚していた妹の子どもを見て、子どもができれば何か変わるかもしれないと考えた麻紀は、"ご懐妊"作戦に出ますが...。


30歳といのは、結構、大きな壁だったりします。特に、30歳になる前には、30歳になることがとてつもなく大きなことに感じられたりします。もちろん、超えてみれば何でもないことなのですが...。


少しずつ体力の衰えを感じるようになり、もう、若いとはいえない、ある程度、生き方も決まってきてしまう時期、けれど、その先を"余生"と割り切るには早過ぎる時期。そんな微妙な時期を迎える麻紀に温かな視線が注がれています。


麻紀の"作戦"は、痛々しく切ないのですが、どこか、滑稽さが漂います。本人的には、それなりに真面目で一生懸命なのだけど、どこか、フワフワと頼りない感じ。自分の不安を子どもを持つこととか、そのことによって彼氏の気持ちを変えることとか、周囲に頼る形で解消しようとするから、こうした歪な形になってしまうのでしょう。


麻紀の作戦、睦雄にすれば、笑い事ではないわけですが、彼にしても、いい加減、独りよがりの夢を追うばかりではいられない年齢。麻紀に騙されていた睦雄に同情するよりも、麻紀とともにオシリを叩きたくなりました。


さて、フリーターと派遣労働者の2人。睦雄が、地に足つけた生活をする覚悟を決め、定職に就くことを目指したとしてもうまくいく保障はなく...、というより、うまくいく可能性は低く、麻紀は、働き続けることになるのでしょう。子どもができても、本来、権利があるはずの産休でさえ、きちんと取らせてもらえるかどうかは???


2人の部屋を包み込む茜色の光は、二人を温かく包み込み明るい未来に導くのか、若いままに黄昏ていく2人を象徴するのか...。


どちらかというと、30歳を目前にした女性のリアルな心情を描いたというよりは、そのもう少し手前からちょっと先の将来を思い描いたという感じですし、全体に何となく薄味な感じで、地に足つけたリアリティよりも、フワフワと漂う浮遊感が感じられる作品ですが、そうした物足りなさも本作の味わいを作っているのでしょう。麻紀や周囲の人々を柔らかく包む雰囲気が観るものの心に沁みてきます。


地味な作品ですが、意外に掘り出し物。なかなか楽しめました。レンタルのDVDで十分とは思いますが、観ておいて損はないと思います。



茜さす部屋@ぴあ映画生活