ハーレムに母親と二人で住む16歳の中学生、プレシャス。実父により、そして、義理の父によっても、妊娠させられ、母親からは精神的、肉体的に虐待を受けています。かなりの肥満体で、周囲から馬鹿にされているプレシャスでしたが、空想の世界ではいつも輝いていました。妊娠により中学を退学させられたプレシャスでしたが、正規の学校をドロップアウトした子どもたちのための教育機関に通うようになり、そこの教師や友人、ソーシャルワーカーの支援を受けながら、悲惨な状況から抜け出そうとしますが...。


かなり悲惨な中で育ったプレシャスですが、防衛本能のなせる技か、プレシャスは、すぐ空想の世界に逃避。ゴージャスな"ファンタジー"の世界が、作品全体の酷さを薄めています。虐待されている子の一つの特徴として無表情だったり、感情表現に乏しかったりということがあるそうですが、それは、自分の感情を殺すことで、傷つけられることから心を守ってきたから。プレシャスが、なかなか、他人に対し自分を表現できなかったり、母親に反論できなかった背景にも同じだったのかもしれません。


そういう意味では、リアルな描き方だったのかも知れませんが、空想世界の描写が長すぎ、プレシャスの置かれた状況の過酷さや、彼女の痛みが、少々、薄れてしまった感じがしました。もちろん、この空想世界の肌の色、体型といった"大変身"をする部分がプレシャスのコンプレックスを示しているわけで、この部分があることによって、彼女の内面が浮かび上がるという構図ににはっているのですが、もう少し、短く抑えた方がバランスが良かったのではないかと思います。


新しく入った学校での初期の学習状況を見ると、中学で"数学の成績は良かった"というのは???だし...。だってねぇ、数学の問題だって"文章"で書かれているわけでしょうし...。それとも、あれは、追い出したプレシャスに対する中学側のせめてもの気遣いということ?


プレシャスが、読み書きができるようになるためにいかに努力したかとか、それを教えるためにどのような工夫をしたかとか、彼女が悲惨な環境を抜け出すために力を蓄えていく過程がきちんと描かれていないために、底の浅い作品になってしまったのではないでしょうか。


出色だったのは、母親役のモニーク。身勝手でダメダメな母親を見事に存在させていました。特にソーシャルワーカーとプレシャスと三者で話をする場面。確かに悪い母親な彼女ですが、それも、彼女自身だけに責任があるのではなく、その生育過程で十分な愛情を受けられず、子どもを慈しみ育てる方法を身に付ける機会も得られずにいたことも原因しているのでしょう。その辺りの彼女の哀しみが痛かったです。プレシャスと同様の経験をしてきたかもしれない母親。彼女のプレシャスへの仕打ちは、彼女が欲しかったものを得ようとしているプレシャスへの嫉妬が背景にあったのかもしれません。


一方、プレシャスやスカイ先生、ソーシャルワーカーの人物描写が薄く、それぞれの人物像が、今ひとつ迫ってきませんでした。


題材は悪くないと思いますし、それぞれの登場人物はなかなかバラエティーに富んでいて面白かったし、キャスティングもそれなりに良かったと思います。それだけに、粗が目立った点が残念でした。良い評判を聞いて期待しすぎたのかもしれませんが、全体に個々のエピソードがバラバラで、全体に中途半端な感じがしてモヤモヤした印象が残ってしまいました。



公式サイト

http://www.precious-movie.net/



プレシャス@ぴあ映画生活