マッチ・ポイント 」「タロットカード殺人事件 」に続くロンドン3部作の締めくくりとなる作品。


二人で小型のクルーザーを購入した兄、イアンと弟、テリー。イアンは、父親の経営するレストランを手伝いながらも、投資家としての成功を夢見ています。テリーは、自動車修理工として働きながら、ドッグ・レースやポーカーなど、ギャンブルで稼ぐ日々。イアンは、舞台女優、アンジェラに恋をし、彼女との新生活を夢見るようになり、テリーは、ギャンブルで巨額の借金を背負い込み、それぞれ、纏まった資金が必要となります。そんな時、大金持ちの叔父が彼らの家を訪れることになります。彼らは、叔父に助けてもらおうとしますが、その見返りとして、危険な頼みごとを引き受けることになり...。


原題は、「Cassandra's dreem(カッサンドラの夢)」。兄弟が買ったクルーザーに付けた名前に重なります。カッサンドラとは、ギリシャ神話に登場するトロイアの女王で、悲劇の予言者。


クルーザーの購入資金のほとんどは、テリーがギャンブルで得たもの。イアンは、投資家としての仕事を始めるための資金を叔父に頼ろうとし、恋人の成功の足掛かりまでも叔父の人脈に頼ろうとします。テリーも、自分の失敗の尻拭いを叔父にさせようとします。


イアンは、恋した女性を手に入れるため、テリーは、莫大な借金から逃れるため、人としての一線を超えていきます。元々、投資家として活動するための資金を作るため、コツコツ貯金していたイアンとケイトとの慎ましやかな幸せを手に入れるためにギャンブルで稼ごうとしたテリー。どうも、それぞれにチグハグな兄弟です。堅実さと一発逆転に賭ける危うさとが、それぞれの中で交錯します。兄弟のどちらの中にも、ギャンブラーな要素と堅実な要素が垣間見えます。


そして、カネで幸せを手に入れようとした愚かさ。ケイトに対しても、アンジェラに対しても、もっと他のアプローチがあったはず。彼らにとって、本当に"運命の相手"なら。結局、お金に換算できる程度のものしか夢見ることが出来なかった彼らの貧しさにも問題があったのでしょう。


さらに、何とも人頼みな心許なさ。いい大人が、何もかもを人の力に縋ろうとした点で、すでに、彼らは、失敗していたのでしょう。結局、イアンもテリーも、自分たちの悲劇を止めることができず、ドンドン深みにはまり込み、堕ちていきます。


彼らの悲劇は、決して、予測できないものではありませんでした。けれど、その時、彼らには、他の選択肢は見えず、そのために追い詰められ、自らを追い込んでいくハメになります。


そもそも、叔父の頼み自体、かなり、しょ~もないワケです。自分の犯した悪が暴かれることを阻止するために一人の人間を亡き者にしようとしたのですから。それも、自分の手を汚さずに。


兄弟は、犯した罪に対する報いを受けます。けれど、彼らに犯罪を指示した叔父は?彼にとっては、一番安心な結末を迎えたというべきなのかもしれません。そう、本作は、「勧善懲悪」な作品ではないのです。


イアンが、冒頭で誘ったウエイトレスとの関係がその後どうなったのか(中途半端な形で、ちょっと彼女が顔を出したりはしますが...)とか、消化不良な部分も残りますし、内容的にも、左程、面白いものとは思えませんでしたが、イアンを演じたユアン・マクレガー、テリーを演じたコリン・ファレルは、それぞれの役どころを見事に表現していて印象的でした。最初は、二人が兄弟というところに違和感もあったのですが、次第に、兄弟らしく見えてきました。


ところどころ、気の利いた遣り取りなどもあったりして、部分的には、それなりに楽しめたりもしたのですが、まぁ、DVDで十分かとは思います。



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ウディ・アレンの夢と犯罪@ぴあ映画生活