熱海殺人事件 [DVD]/仲代達矢,風間杜夫,志穂美悦子
¥3,990
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つかこうへいの同名戯曲をつかこうへい自身の脚本で映画化した作品。舞台は未見です。


警視庁の名物刑事、二階堂。"捜査は芸術だ"がモットーの彼は、"たかが熱海で、一介の工員が、よりによって浴衣の腰紐でブスを絞め殺したチンケな事件"を一級の殺人事件に仕立て上げていきます。


何とも滅茶苦茶な人々。けれど、そのあり得ない人たちにしっかりした存在感が出ているのは、やはり、流石の演技力ゆえなのでしょう。見事に一つの世界が構築され、その中に惹き込まれます。笑わされながら、チクッと心を刺激されながら、最後まで、楽しむことができました。馬鹿馬鹿しさの中にも、ところどころ、引っ掛かるセリフが散りばめられます。


真実などどうでもいい。大切なのは"世間の納得"。日本人社会の姿を巧く皮肉っていると思います。あまりに馬鹿馬鹿しくあり得ないフィクションでありながら、見事に現実を捉え、不思議なリアリティを感じさせてくれます。実際に、二階堂と同じ警察官はいないはず、というか、いてはいけないのだけど、同質の無茶な捜査をする警察官はこれまでにもいたでしょうし、これからも出てくるのでしょう。


作り上げられる"真実"。そして、その"嘘"の中で、現れてくる"真実"。"真実"というものの軽さと重さが感じられます。そして、"真実"を作り上げていく過程で意識される"世間の目"。この辺りは、いかにも"日本的な"世界で、私たちの日常の中に確かにあるもの。"空気を読む"ことの愚かさと恐ろしさ。馬鹿馬鹿しさの中にも、社会に向けた風刺の視線が感じられます。


しっかりした脚本を力のある出演陣が支えれば、これだけ面白いものが出来上がるという見本のような作品。さすがに、映像や音質に古さは感じられますが、一度は観ておきたい作品だと思います。お勧め。



熱海殺人事件@ぴあ映画生活