レストランのマネージャーの仕事をしているシルヴィアは、顧客の評判も上々。けれど、一方で、行きずりの男たちと関係を重ねる孤独な日々を送っていました。ある日、彼女の前に、マリアという少女を連れたメキシコ人の男が現れます。シルヴィアの母は、妻子ある男性と恋に落ち、人里離れた場所にあるトレーラーハウスで情事を重ねていました。それに気付いたシルヴィアは...。


シルヴィア、その母、その娘。それぞれを軸とした3つのストーリーが交錯し、少しずつ、それぞれの人生の背景が明らかになっていきます。難解でもなく、簡単に分かりすぎることもなく、適度な緊迫感と混乱。全体の構成が巧いのでしょう。最初から最後まで作品の世界に惹き込まれました。


そして、シルヴィアを演じたシャーリーズ・セロン、その母を演じたキム・ベイシンガーが見事。まぁ、常識的に考えれば、妻として、母として、あまりに無責任で身勝手だった2人。けれど、彼女たちの抱えた傷の大きさ、哀しみがリアルに表現され、2人の運命の切なさが胸に沁みてきます。


自分の親の不倫相手の子。憎み合う関係になるのが本来の姿。けれど、ある意味、"同じ事件の被害者同士"。そんなところで、シルヴィアとサンティアゴは結びついたのかもしれません。彼らの間には恋愛感情があったのか、それとも、"同病相憐れんだ"のか...。最後のほうに出てくる"種明かしシーン"を観ると"相憐れんだ"要素が強い感じがしますが、その辺りの葛藤のようなものが描かれると、最終的には、サンティアゴの意思とサンティアゴが育てた娘がシルヴィアを再生させるという流れがより明確になったような気がしました。


シルヴィアの母が不倫にはしった背景は、少々、弱いような...。まぁ、全く分からないわけではないのですが、彼女の夫も特に悪い人でもないようだし...。(それだけに、妻の女としての痛みは深かったのかもしれませんが...。)


全体を通して、悪い人はいないのです。シルヴィアの母にしても、その不倫相手にしても、シルヴィアにしても、弱くはあったかもしれませんが、悪人ではありませんでした。だからこそ、自分の行動をコントロールできずにはいても、そこのとで悩みもしたし、傷付きもしたワケで...。悪人はいなくても悲劇は起こります。そして、そのおために、様々な人が傷付き、痛みを負います。それが、私たちの生きる世界の哀しさなのでしょう。だからこそ、"許し"が必要とされるのでしょう。


ただ、ラストは、あまりにアッサリし過ぎている感じもしました。もっとも、そのことが、シルヴィアのとった行動が"正解"だったことの証となったのかもしれませんが...。


冒頭の燃え上がるトレーラーハウス。その業火、シルヴィアとサンティアゴを結ぶ"火"。シルヴィアが憎んだ母の行動とシルヴィアの行動。親から子に伝えられる因縁と負の連鎖を乗り越えるもの。重い雰囲気の作品ですが、最後には、希望が感じられます。


娘、妻、母...。そんな"女"の人生が詰まった作品です。なかなか濃厚な作品でした。一見の価値アリ。



公式HP

http://yokubou-daichi.jp/



あの日、欲望の大地で@映画生活