大英帝国の礎を築いたエリザベス1世の母、アン・ブーリンと、歴史上は無名だったその妹、メアリーを主人公とするフィリッパ・グレゴリーの同名小説を映画化した作品です。




16世紀のイングランド。新興貴族のトーマス・ブーリンは、一族の繁栄のため、才気溢れる美しい娘、アンを国王ヘンリー8世の愛人にすることを企てます。ところが、国王の心を捉えたのは、すでに結婚していた妹のメアリーでした。トーマスは、早速、作戦を変更。メアリーを国王に差し出し、一家で宮中に移り住みます。トーマスの願いがかない、メアリーは男児を出産します。ところが、妹の策略によりに国王の愛人となる栄誉を奪われたと思い込んだアンは、一時、フランスに追いやられていましたが、やがて呼び戻され、王妃の座を狙って策略を巡らし...。




歴史上、実在した人物が多く登場しますが、史実に忠実に描いているわけではなく、かなり、脚色されているというか、変更が加えられているようです。




ブーリン家には一男二女がいましたが、アンが妹、メアリーが姉だったという説も有力なようです。そして、アンが黒髪、色黒、小柄、痩せ型という当時の基準では美人とは言い難い容姿だったのに対し、メアリーは、金髪、色白、豊満という当時の基準で文句ない美女だったようです。そして、アンとメアリーの母、エリザベス・ハワードもヘンリー8世の愛人だったことがあったという説もあるようで...。アンがフランスに行かされたのも、罰としてではなく、不器量なアンを哀れに思った父の計らで、フランスに嫁ぐ王妹の侍女に加えたのだとか。そもそも、パーシー卿と巡り合ったのは、帰国後で、彼らの間を引き裂いたのは、国王だったようですし...。




そして、本作では、アンが国王に働きかけてローマ・カトリック教会と決別したように描かれていますが、当時のヨーロッパ、キリスト教国の王にとって、ローマ・カトリック教会は非常に大きな存在。ヘンリー8世の前にも、ローマ・カトリック教会の影響の外に出ようと試みた国王はいましたが、いずれも失敗。教皇の権力の強大さの前に屈辱を味わい、失脚しています。




もちろん、徐々に、ローマ・カトリック教会が力を失っていたという歴史的背景があったわけですが、それにしても、ローマ・カトリック教会からの離脱というのは、アンの入れ知恵があったくらいのことで成し遂げられるものではないはず。本作で描かれるヘンリー8世には、それができるような強固な意志の力が感じられないのは残念。




そして、ブーリン家の父親の動きにも疑問は残ります。日本の皇室や幕府、大名家などとは違い、正当な王位継承者として認められるためには、"男児"であることより、"正式な婚姻のもとで生まれた子"であることが重要なはず。娘を愛人に差し出し、男児を生んだからといって、その娘が愛人である以上、一族の繁栄をもたらすわけもなく...。その点、あくまでも、結婚を望んだ本作のアンの生き方は正しかったということになるわけですが...。




結局、ヘンリー8世は、誰もが文句を付けられないような跡継ぎをを残すことができませんでした。作中で指摘されているように、「国王と寝ることはプライベートなことではない」のです。国が安定し、人々が内戦などで血を流さず平和に生活するためには、文句のつけようがない跡継ぎを残すことが、一番、大切なわけで、それができなければ、国土も民も跡継ぎ問題を争う戦いにより疲弊することになるのです。




ストーリーや設定については、無理が感じられる部分もあり、また、史実と設定が変えられている場面も、何故、そうした変更が加えられたのか、その理由が良く分からない部分も多く、全体に違和感が漂います。




それでも、アンを演じたナタリー・ポートマンとメアリーを演じたスカーレット・ヨハンソンは印象的。片方が光を浴びればもう一方は闇に沈み、一方が闇から這い上がれば、他方は光の世界から転げ落ちる...。対照的な2人は、全く相反するような特徴を見せながら、それぞれに強さを感じさせる面があり、その両者の対決には迫力が感じられました。何といっても、本作の見どころは、この2人と豪華な衣装でしょう。




重厚な感じの映像も印象的。観ておいて損はないと思います。






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ブーリン家の姉妹@映画生活