ファーストフード・ネイション デラックス版
¥3,086
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アメリカの大手ハンバーガー・チェーン、「ミッキーズ」では、新しく主力商品として発売した"ビッグ・ワン"の売れ行きも好調で、幹部たちは上機嫌でした。けれど、牛肉のパテに糞便性大腸菌が混入していたことが発覚します。一方、メキシコからは、密入国者が毎日のようにやってきて、ミッキーズと契約している生肉工場で劣悪な環境の下で働いていました。調査のため、マーケティング部長のドンは、その工場を視察しますが、問題は、彼の目に触れないところに隠され...。


ハンバーガーが、普通考えるよりずっと安い価格で売られる。その背景にある状況は単純ではありません。


不法移民が悪条件の元、低賃金で酷使され、不法移民を送り込むブローカーが暗躍し、アメリカ人の若年労働者も低賃金で働かされ、食品であるにも拘らず、商品が管理される衛生環境は悪く、牛肉に、牛の糞が混じり、もしかしたら、ネズミなどの肉や人肉さえも混ざり...。


そして、その渦中にいる不法就労する人々、アルバイトの学生、関連産業で食べている人々、そのあり方に異議を唱える人々...。


作中でも登場人物が語るように、この構造は、単純ではありません。様々な要素が複雑に絡み合い、そのために、強固に守られています。不法移民を厳しく取り締まりさえすれば良いとか、労働条件を改善さえすれば良いとか、衛生管理を徹底させさえすれば良いとか、そういう問題ではなく、そのすべての側面に総合的にメスを入れていかなければ、恐らく、何も変わらないのでしょう。


すべの問題を解決すれば、私たちは、その商品の対価としてある程度の金額を負担せざるを得なくなるでしょう。そして、それに耐えられない人も少なくありません。


結局、少しでも多くの収入を得たいと国境を越えていく人々も、彼らを動かすブローカーも、安さに惹かれて商品を買う消費者たちも、儲ける側も...、実に多くの人間が共同正犯となっているのですから、問題の根は深いのです。


本作を観ていても、実に多くの問題が絡み合っていることが分かります。ただ、そのために、やや、焦点がボケてしまった感じがしなくもないのですが、それでも、この問題の広がりといったところが表現されたという点では良かったと思います。もっとも、ストーリー性を持たせることにこだわる必要はなかったのかなとも思いますが...。ドキュメンタリーとしての色合いを強く出すか、ストーリーの部分を前面に出すか、そのバランスが中途半端になってしまった感じがしました。


それでも、工場内部の描写などは迫力があります。そして、"食べる"ということについて考えさせられます。


食べなければ生きてはいけない私たちですが、でも、少なくとも、今、日本を含めた先進諸国で消費されるカロリーは必要量を遥かに超えています。食べながらダイエットに精を出すという矛盾。ダイエットにエネルギーを費やすくらいなら、無駄なカロリーの摂取を控えれば良いだけのこと。本当に単純なことなのですが、それが、難しい。


もちろん、こと食べ物だけの問題ではないのでしょう。普通では考えられないほど安い物を買いたくなった時、少し、立ち止まって考えるべきなのでしょう。何故、そんなに安いのか、その背景にあるものを。


知っておくべきことが描かれている観ておくべき作品だと思います。



ファーストフード・ネイション@映画生活