ブエノスアイレス/レスリー・チャン
¥4,042
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舞台はアルゼンチン。旅の途中で知り合ったゲイのカップル、ウィンとファイ。時折、二人の想いはすれ違い二人の関係は崩れかけますが、その度にヨリを戻してきました。数度目の"やり直し"をしようとイグアスの滝へ旅立ちますが、道に迷って言い争いになり、別れてしまいます。その後、ブエノスアイレスのタンゴ・バーでのドアマンの仕事にありついたファイの下に、傷だらけのウィンが転がり込んできます。ウィンはしばらくファイの部屋に居候しますが、かつてのようにベッドを共にすることもなくなります。ドアマンからコックに仕事を変えたファイの留守中、ウィンはどこかへ出かけることが多くなり...。


くっついたり、離れたり、互いに想いを寄せ合いながらも、それが、どこかでスレ違ってしまったり、慈しみあいながらも傷つけあい...。それは、どこにでもある普遍的な恋人たちの姿でした。彼らが、男同士だから特別にどうこうということではなく。このカップルが男と女のカップルであっても、本作は成立したのかもしれません。結局、男同士だからと言って、特別なことではないということなのかもしれませんが...。


香港から遠くアルゼンチンにやって来たウィンとファイ。けれど、中国人のいない国の方が珍しいのかもしれません。世界各国に中華料理屋を作り、中華街を作る中国人ですから。そして、アルゼンチンにウィンとファイがいることにも違和感がなく、ごくごく支援な感じで受け止めることができました。


男同士のカップル、南米の中国人...。それが、特異なものとしてではなく、無理なく存在する。そこに、本作の独特の味わいが感じられます。


話が細かく途切れ、飛んでいく感じがあり、時々、置いていかれそうな場面もありましたが、それこそが、二人の心の中に寄り添った表現だったのかもしれません。そして、微妙にフワフワと漂う感じが、生まれ育った場所から遠く離れた場所に旅してきている二人の心情を映しているようにも思えました。


二人がタンゴを踊るシーンは圧巻。哀愁を漂わせながらも情熱を感じさせる音楽が二人の心に寄り添い印象的な場面となっています。映画史に残る名場面の一つと言って良いかもしれないとさえ思えました。


「役柄=役者」ではないわけですが、それにしても、本作の数年後にレスリー・チャンが命を絶ってしまったことを考えずにいられません。ラストで「会いいたいとさえ思えばいつでもどこでも会えることを確信した」という内容のセリフを残した前向きな感じのファイでしたが、一方のウィンは、別れの痛手から立ち直れたのか...。その後のレスリー・チャンの歩みを重ねると胸に沈んでくるものがあります。


冒頭は、なかなか衝撃的でしたし(とは言え、濃厚なベッドシーンと、少々、浮いた感じの白いブリーフには、バランスの悪さも感じましたが...)、この手の作品に拒否感を覚える人も少なくはないと想いますが、それでも、お勧めしたい作品です。



ブエノスアイレス@映画生活