アデルの恋の物語
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1863年、イギリスの植民地であったカナダの港に一人の女性が降り立ちます。彼女は、アデル・ユーゴー。フランスの文豪、ヴィクトル・ユーゴーの次女でした。彼女には、父のヴィクトル・ユーゴーがナポレオンⅢ世と対立し亡命した先で出会い結婚の約束をした男性がいました。そのピンソン中尉が派遣されていたカナダへ彼を追って家を出てきたのです。けれど、ピンソンの心は既に冷めっきっていて...。


凄まじい恋です。何故、ここまで?という疑問から、ずっと、抜け出ることができませんでした。恋というものは、大なり小なり、自己中心的な部分があるものでしょう。そして、独りよがりな部分もあるものでしょう。けれど、それにしても、いくらなんでも...。


観ていると、アデルに心を寄せたくなるよりも、アデルから何とか逃げようとするピンソン中尉に同情したくなってしまいます。もちろん、軽率に結婚話を持ちかけるピンソン中尉にも責任はあるのですけれど...。


アデルを演じたイザベル・アジャーニは見事。まだ、誇り高さと初々しさが感じられる最初の部分から、次第に心が壊れていく過程、そして、あれほどまでに恋い慕ったピンソンの姿を見分けることさえできなくなる程に荒んでしまったラスト部分のアデル。


この「アデルの恋」自体は、とても、痛々しく、正視に耐えないほどなのですが、それでも、観てしまうのは、イザベル・アジャーにの美しさ、そして、切なく哀しい彼女の変化が見事だったからなのでしょう。


映像も見事で、その静かな美しさと、アデルの痛いほどの激情の対比が哀しく胸に迫ってきます。


アデルは幸せだったのか、不幸だったのか。本作のアデルの人生は、一見、悲劇的で、彼女の人生を見ていると絶望感さえ漂ってきます。けれど、これほどまでに身を焦がして、全てを投げ出して手に入れたいと思えるような何かと出会える人は滅多にいないでしょう。そんな対象と出会えたこと自体は不幸ではないはず。もっとも、ピンソン中尉にとって、アデルに追われたことは幸福とは言いがたいでしょうし、やはり、自分の行為が他人の、それも、慕った相手の幸福を脅かしていることを考えると、アデルも幸福とは言えないでしょうけれど...。


本作は、実在の人物であるユーゴーの娘のアデルの半生を実話を元に描いています。本作でアデルを演じているのは19歳のイザベル・アジャーニですが、実際にアデルがカナダに渡ったのは33歳の時なのだとか。当時の33歳という年齢が、未婚の女性としては、かなり高いものだったであろう事を考えると、実話の方が凄味が感じられます。そして、本当に本作のようなことが起こったのだと思うと、アデルの人となりに興味も感じます。


好きな作品かということになると首を捻ってしまいますが、観て良かったかどうかということになれば、やはり、観て良かったのだと思います。不思議と心惹かれるものを持った作品です。時が経てば、また、観たくなる作品、かもしれません。



アデルの恋の物語@映画生活