エイベックス・エンタテインメント
蒼き狼 地果て海尽きるまで 豪華版


12世紀のモンゴル。様々な部族の間での闘争が激しくなっていました。そんな戦いの中にあるボルジギン族の長の妻、ホエルンが男の子を出産、テムジンと名付けられます。テムジンが14歳になった頃、対立する部族に父親を殺されると、母親であるホエルンが敵から略奪されてきた身であることを理由に部下たちから見捨てられてしまいます。けれど、苦労を重ねながらも、テムジンは、徐々にリーダーとしてのカリスマ性を発揮するようになります。そして、ホルテを妻に迎え、次第に勢力を拡大していきます。やがて、子どもにも恵まれますが...。


チンギス・ハーンは、何といっても、モンゴルを世界一の大帝国にする基礎を築いた英雄。その人物を主人公にした作品がこの出来栄え。これを見たモンゴルの人は、どう感じるのでしょう?横綱の座をモンゴルに持っていかれた日本人のような気持ち?「SAYURI 」を観る日本人のような気分?


お金を賭けたということはわかります。何だかんだ言っても、大勢の人間を集めて映像は、それだけでも迫力があります。そして、モンゴルの広大な風景は、やはり、魅力的。大きな舞台で繰り広げられる大規模な戦闘や戴冠式の場面には、飲み込まれるような迫力が感じらたのも事実。


けれど、出演陣がほぼ全滅。セリフも何だかワザとらしく浮き上がっている感じが否めないし、何よりも、彼らに、「砂漠の中で馬上で生活している」という雰囲気が全く感じられません。準備不足なのでしょう。日本人が、遊牧民を演じるのであれば、それも、世界史に名を残すような人物を演じるのであれば、撮影に入る前に、少なくとも2~3カ月は遊牧民の生活にどっぷりと浸るくらいのことはしておくべきでしょう。


これまでに、何本かモンゴルでの生活が描かれていたりモンゴルの人々が登場する作品(「天空の草原のナンサ 」「プージェー 」)を観ていますが、そこに登場する人々に比べ、本作の出演陣は、あまりにひ弱な感じです。もちろん、現代の日本人がこの時代の遊牧民を演じることに無理があるわけなのですが、そこに大きな無理がある以上、少しでも、それを埋めようとする努力や工夫が欲しかったです。


そして、チンギス・ハーンに冷酷な面があり、徹底的な殺戮を繰り返したことは周知の事実。けれど、これだけの広大な領土を支配し、多くの民を従わせた背景には、やはり、冷酷無比なだけではない一面があったのではないでしょうか?そうした、周囲を従わせる恐怖以外の要素のようなものが見えてこなかったのも残念。もう少し、ステレオタイプでない、チンギス・ハーンの魅力的な部分が描かれていれば、作品に魅力が出たのではないかと想います。


当たり前のことですが、大金を投じたからと言って、大掛かりな映像を撮ったからと言って、それだけで、映画作品として面白いものになるわけではありません。本作は、残念ながら、そのことを実感させてくれる作品となってしまっています。こうした感想は、ハリウッドの大作を観て感じることが多いのですが、こうした印象が残る邦画だったというところが画期的(?)といったところでしょうか?



蒼き狼 地果て海尽きるまで@映画生活