松竹
あなたになら言える秘密のこと


周囲の誰とも打ち解けようとせず、ほとんど自分の感情を見せることもなく、黙々と工場で働くハンナ。その真面目すぎる働き振りを上司に咎められ、強制的に休暇を取らされてしまいます。その休暇中に、ひょんなことから油田掘削所で、事故で大怪我をしたジョゼフの看護をすることになります。向った先は、海に浮かぶ油田。世間から隔絶されたその場所では、初老の責任者、陽気で腕のいい料理人、オタクな海洋学者、機関室係の男性同士のカップル、清掃係といった個性的な面々が働いていました。彼らとの生活の中で、ハンナは、次第に笑顔を見せるようになり...。


生きていれば、人は、何かのきっかけで大きな傷を負うことがあります。時に、それは、心の奥底に深く突き刺さり、その人生から多くのものを奪っていきます。ハンナも、深い傷を負い、そのことを心の中に秘めたまま、ひっそりと生きていました。


そのハンナが、外界から隔絶されたところに居場所を得ます。そこは、世間とは違い、一人で孤独に時を過ごすことを許容されている場所で、他人と群れることを要求されることはありませんでした。そこに、ハンナは居心地の良さを感じ、視力を失って寝たきりになっているジョゼフとの触れ合いがハンナの心を癒していきます。


一人になるのもいい。けれど、やはり、人は人との繋がりの中でしか、本当にいい形で生きていくことはできない。自らの傷を心の中で整理し、言語化し、外へ向けて表現し、それが他人によって受け容れられることではじめて人は癒されるのだと、そんな、メッセージが聞こえてきます。


本作では、ジョゼフとハンナの再生が描かれます。特に、ハンナの過去は、衝撃的。その語られる内容の凄さに、一瞬、大脳が麻痺してしまうような感覚を覚えました。それは、ハンナにとっても、自分の過去として語るには酷すぎる内容。けれど、確かにそんなことも起こるのだろうと思わせるリアリティがありました。実際、ある状況の下では、人は、かなり残酷になってきたわけで、その被害者は、深刻な傷を受けることになるわけで...。


ラストで、本編中に聞こえてくる語りの声の主が明らかになり、そこで、また衝撃が...。この辺りの構成に迫力が感じられ印象的でした。


けれど、どんな過去も、生きていれば、いつか、乗り越えることは出来る。その可能性を信じさせてくれる説得力を持った希望を感じさせる作品でした。お勧めしたい一枚です。



あなたになら言える秘密のこと@映画生活