ソニー・ピクチャーズエンタテイメント
ブレイブ



ジョニー・ディップの監督デビュー作品。


貧困にあえぐネイティヴ・アメリカン。前科も多く、なかなか職を得られずにいるラファエルは、仕事にありつけるという情報を得て、寂れたビルの一室にラリーという男を訪ねます。そこで、謎の男、マッカーシーに引き合わされます。マッカーシーは、ラファエルに、人間を実際に殺す映像を見せるスナップ・ムービーへの出演と引き換えに5万ドルを支払うという取引を持ちかけます。家族のために、命を賭ける覚悟を決めたラファエルは、その条件を受け入れ、前金として、報酬の3分の1を受け取ります。彼に残された期間は、1週間。家族を喜ばせようと次々に買い物をするラファエルを見て、妻のリタは、夫がまた犯罪で不正な金を得たのではないかと疑いますが...。


命と引き換えに、5万ドル。もしかしたら、今、私たちが日本で感じているのとは、お金の価値観に違いがあるのかもしれませんが、あまりに安すぎて、説得力がないように思います。けれど、命を賭けなければ、到底、そんな大金を手に入れることはできない。それこそが、彼ら、ネイティヴ・アメリカンの置かれた状況を示しているのでしょう。


そして、マッカーシーがラファエルの命に5万ドルという値段をつけたのも、ネイティヴ・アメリカンの置かれた状況を知っているからこそ。そして、彼らの命なら、自分の慰めのために弄べるということ。


ラファエルは、ゴミの山の隣で生活しています。生活のために必要な水を汲む川も、とても衛生的とは言えません。そして、そんな悲惨な住処でさえ、金持ちの気持ち一つで踏み潰されてしまいます。その場面とラファエルが頃されに行く姿が重ねられることで、彼を取り巻く社会的な状況とそこから抜け出すための選択肢の少なさが実感でき、ラファエルの決意の哀しさが伝わってきます。


人は愛するもののために、どこまで犠牲を払えるかということと同時に、人はどこまで人に対して残酷になれるかということが追求されているように思えました。


そして、死を見物する側と見世物にされる側を分けるお金。今の社会、お金がなければ生きてはいけません。けれど、あまりに多額の資産を持てば、人の命をお金で買おうとするほどに堕落してしまうのです。


さらに、人にとっての"死"の意味。迫りくる死はの恐ろしさ。少し離れたところにある死のスリルと不思議な魅力。死は、人にとって、底知れない不安と恐怖の種でありながら、一方で、人を惹き付けて放さない甘美な香りを持っているもの。


ラファエル自身も、映像も、寡黙ですが、秘められた熱い想いが伝わってくるような作品でした。


どうあれ、やはり、何とか、家族のために生きるという選択ができなかったものかという気持ちも残りますし、ラストも、少々、唐突な印象も受けましたが、静かながら、力強く訴えてくるものが感じられる佳作だと思います。



ブレイブ@映画生活