ポニーキャニオン
愛の叫び ~運命の100日~



ジャーナリストとしても活動したことがある作家、ジル・クルトマンシュの小説を映画化した作品です。


HIV感染者の実情を追うドキュメンタリーを撮影するため、ルワンダを訪れたジャーナリストのベルナールは、フツ族とツチ族間の民族対立の不穏な状況に胸を痛めていました。そんな時、心を癒してくれるホテルのウェイトレス、ジャンティーユと恋に落ちます。けれど、民族対立が、二人を危機的な状況に追い込んでいき...。


虐殺が最も酷かった時期に拘束されていたベルナールは、解放され、首都キガリに戻ります。けれど、ほとんどの建物が破壊され、知人の消息を追おうとしても、手がかりを掴むむことすら難しい状態。そんな中で、ベルナールは、離れ離れになってしまったジャンティーユの消息を追います。


そして、ベルナールとともに、観る者も少しずつ虐殺の状況について知るようになります。


自身が、後で振り返って、逃げなかったのは、自分の傲慢さと愚かさの故だと後悔していますが、やはり、どこかに、カナダ国籍の白人であることからくる自信があったのは否めないでしょう。それは、彼自身の罪というよりも、長年の植民地と宗主国という関係、黒人と白人の関係が投影されているということなのでしょう。


ルワンダの虐殺を扱った作品は何本か観ましたが、本作が、他の作品と違うのは、例えごくわずかな一部分だけについてにせよ、ベルナール自身が、虐殺に関する罪を自覚していたということ。


ツチ族とフツ族は、元々は(宗主国であったベルギーの政策により支配層に近いツチ族と支配層から離されたフツ族が明確に別けられるまでは)、良き隣人同士であり、同じルワンダ人としての意識を持っていた民族。というより、「違う民族」として捉えること自体間違っているという説もあるほど、似通った人々。混血も多く、本作に登場するジャンティーユも、ツチ族の母とフツ族の父を持ちます。そして、本来のルワンダの風習では、父親がフツ族であれば、その子もフツ族とみなされるはず。けれど、彼女はツチ族として殺されます。純粋なツチ族だけでなく、ツチ族と結婚したもの、交流の深かった者...、すべて穢れた者と看做され、抹消されるべき対象となっていきます。


隣人同士が殺し合う凄惨さ。その人としての理性のタガが外れた狂気の嵐の中、何かと理由が付けられ、人が殺されていきます。ごく普通に穏やかで温かい交流を持ちながら、共に生活していた人々が、残忍に殺し合うようになる。そのことの恐ろしさが描かれています。


そして、悲惨な状況にある彼らを世界は見捨てました。ツチ族とフツ族の諍いは、ルワンダを植民地にしていた旧宗主国の住民を懐柔するための政策も原因となっています。けれど、この虐殺の責任の一端を担っている国々も積極的に解決のために動こうとはしません。特別に欧米各国が欲しがるような資源を産出するわけでもない国を救うために労力を割くのは無駄といわんばかりに。


キリスト教を伝え、この地の人々の幸福を祈るために最後までルワンダと運命を共にするはずだった教会の神父も、結局は、ルワンダを脱出します。もちろん、自分の命を守るためであるその行為を攻めることなど、誰にもできないでしょうけれど...。


平和だった頃の風景と虐殺後の風景とが、対比されるような形で映し出され、何が行われたのかが、分かりやすく物語られます。


ラストの展開は、理解できるような気もしますが、やはり、納得のいかないものが残ります。作中のベルナールとジャスティーユの遣り取りの中にも、カナダ人の白人であるベルナールとルワンダ人であるジャスティーユの死生観の違いについては触れられていますが、ここは、ベルナールがジャスティーユの死生観に寄り添ったと解釈すべきなのでしょう。そして、本作は、「ホテル・ルワンダ」など、大量虐殺そのものを描いたというよりは、二人のラブストーリーであることが印象付けられるのもこのシーンです。


大量虐殺が行われていたのが1994年。その後、10年以上が経過していますが、まだまだ、国民の大半の記憶にあるはずの、比較的、新しい出来事です。当時、何人もの人にナタを振り下ろした経験がある人も多く残っていることでしょう。熱狂的な狂気の嵐が収まって、その人たちは、今、何を想っているのか...。


作中でも、ベルナールが「何故、この美しい国で...」と嘆きますが、画面に拡がる長閑な風景は、虐殺の背景には、全く、相応しいものではありませんでした。美しい風景、そこで行われた大量虐殺、そして、その悲惨な状況の中で貫かれた愛...。人間の世界の美しさと醜さ、そして、その落差について実感させられる作品でもあります。


そして、ラストで心を通わせるベルナールとジャンティーユの忘れ形見である少女。それぞれが、互いの存在により、傷を癒され、未来に向かっていく可能性を感じさせてくれる明るいラストに救われる想いがしました。


愛の叫び ~運命の100日~@映画生活