東北新社
アイデン & ティティ


イタイけれシミジミと懐かしい青春映画。


バンドブームが吹き荒れた頃の東京。4人組のロック・バンド"SPEED WAY"もその波に乗り、メジャーデビューを果たします。けれど、今ひとつブレイクできず、メンバーたちも、相変わらずのバイト生活を続けていました。狭苦しいスタジオで練習し、居酒屋でロック談義に花を咲かせ...。あくまで理想を追求しようとするギタリストの中島と売れる曲を書けと中島に迫るボーカルのジョニーは対立し、そんな中で、中島は思うように曲をかけず悩みます。そんな中島の元に、ロックの神様、ディランが現れ、ハーモニカで語りかけてきて...。


恐らくは、左程、珍しくも、目新しくもない、どこにでもある青春の一つの姿です。


夢見がちで、自意識過剰で、現実を知らず(見ようとせず)、大人や世間に批判的で、純粋で...。子どもの世界を抜け出したいと足掻きながら、けれど、あっさりと醜い大人の世界に入ることもよしとできない。だからといって、自分の力で世界を変えようとまでは思い切れない。


そんな中途半端で、悩み多き時期。その時は、必死で、真剣に、悩み苦しんだはずなのに、後で振り返ってみると、どこか気恥ずかしいような甘く切ないものが沸いてくる。そんな青春の気恥ずかしさや痛さが上手く描かれているように思えました。


結局は、メジャーの中で生きていくことを拒否し、同時に、拒否され、小さな世界の中に自分らしく生きる道を見つけていきます。それは、勝利だったのか、敗北だったのか...。勝ち負けで捉えるべき問題ではないかもしれませんが、何かを表現するという活動を選ぶ以上、メジャーになりたいという気持ちが出てくるのは自然なこと。そして、多くの人の目に留まる存在になるほど、自分を表現し伝えようとするテクニックを磨かなければならない。その道を安易にリタイアしてしまうことは、純粋さを選ぶということを言い訳に成長を拒否しているようにも見えてきます。


"ロック"をどう捉えるかというのは、人それぞれあるのかもしれません。けれど、"ロック"というのは(ロックに限らず、新しい表現というのは)、時代に対する反逆であり、社会を変えようとする動きでもあります。大きな社会に働きかける意欲を失ってしまったのだとしたら哀しい気がします。


強すぎて純粋すぎる自意識に取り込まれてしまう中島の姿というのは、ある意味、とても青春を感じさせます。その先、彼は、大人の世界へ入っていこうとするのか、しないのか...。その先の中島の生きる道が気になりました。


アングラには、アングラの良さや、存在価値があると思うのですが、アングラに徹する覚悟というか、思いの強さのようなものが今ひとつ感じられませんでした。メジャーになろうとするのでもなく、かといって、メジャーに牙を剥こうというのでもなく、メジャーとは別の世界で小さく纏まってしまったような感じになってしまったのは、残念な気がしました。


とはいえ、青春のある面を上手く切り取った作品であることは、間違いないと思います。中島とジョニーの双方に、青春の頃の自分の一部を重ね合わせながら、ほんのりとした苦さと甘さを思い出しながら、懐かしい雰囲気を味わえる作品でした。




アイデン&ティティ@映画生活