世代の異なる5人の女性。それが、出演者のほぼ全てというディスカッションドラマを思わせるような構成の映画です。核になっているのは、香川京子演じる雨見保江が失いかけていた大切な記憶を取り戻していく過程。孫の明美に送られて長男の家に向かっていた保江は、戦時中に疎開していた時に住んでいた館山の家を訪ねることにします。その家の持ち主となっている光江は、蒸発した夫を待ちながら小学生の娘、里香とともに暮らしていたのですが、保江が訪ねた時は、その家を取り壊すために引越しをしている最中でした。そのまま保江と明美はその家に泊まることになったのですが、その夜、やはり、その家に住んでいた美土里も現れ...。


保江、美土里、光江、明美、里香。老年期に入った保江から小学生の里香まで、まさに、「女の人生絵巻」といった感があります。それぞれの抱える女としての悩み、成長、幸せ...。そういったものが静かにしみじみと描かれています。


そして、人の人生を支える「記憶」というもの。考えてみれば、個人がその人個人であることの証となる最大のものが記憶なのかもしれません。生まれた直後から積み重ねれれていく様々な経験が人を育て、人の性格を決定付け、考え方や生き方を作り上げていくのだとすれば、それを支えるものは記憶です。


周囲に居た誰かに関する記憶こそが、その記憶の中の人の「死後の生」を保障できるのでしょう。本作の中で、身寄りのないしに行く兵士が、自分の記憶を持っていてくれるであろうただ一人の人である保江に託す想い。そして、記憶を失いつつある保江の「私が忘れることであの人は二度死ぬことになる」という言葉の重さ。そこに、亡き人と現世の人を繋げる線が見えてきます。


そして、本作では、保江の脳裏に焼き付けられていながら、奥深くに眠りかけていた記憶を掘り起こしていく過程が丁寧に描かれています。保江が周囲の人たちを巻き込みながらも取り戻していった記憶。


けれど、彼に関する記憶を取り戻した保江が、見つけた形見の品を燃やしてしまいます。保江は、自分の死への準備に併せて、自分の心の中でのみ生きている彼の二度目の死の準備をしたのかもしれません。


そして、保江が記憶を手繰り寄せていくのとともに、他の4人の登場人物、それぞれが抱えるものが炙り出されていきます。保江とともに、それぞれがそれぞれの人生を取り戻し、それぞれの歩むべき道を見出していきます。


各世代の女性たちを取り巻く時代背景も上手く取り込まれ、ストーリーに深みが出ていたと思います。そして、極めつけは、樹木希林の名演。圧倒的な存在感でした。特にウィッグを取って素の顔に戻る時の表情、ゾクッとしました。後半、やや陳腐な展開になてしまったのは残念でしたが、それでも、じんわりと人生を感じることができる味わいのある佳作だったと思います。




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赤い鯨と白い蛇@映画生活